「お客さんにご紹介すると、興味を持つ方が多いんです。でも『採用実績は?』とか、『本当に大丈夫?』とか聞かれて、どうも真剣に考えているように見えないんですよね」
その人は、新規事業立ち上げに挑戦中。なかなか案件が進まず、悩んでいるようです。
新商品や新サービスを立ち上げる際、私たちは「こんなの、今までにない。きっとみんな興味を持つはずだ」と思いがちです。しかし「興味は持たれるものの、なかなか売れない」という現実に突き当たる人はとても多いのです。
私もIT業界で色々な新商品立ち上げに関わってきましたが、まったく同じ経験をしてきました。斬新な製品に興味を持つお客様はとても多いのですが、その中で実際に採用にするお客様は意外なほど少ないのです。
なぜこんなことが起こるのでしょうか?
この現象を説明する理論があります。「イノベーター理論」です。
まったく新しい商品が発売されると、必ず次の顧客グループの順番で採用が進んでいきます。
①イノベーター(全体の2.5%)…新しいモノに真っ先に飛びつく
→②アーリーアドプター(13.5%)…「役立つ」と思うと、リスクを取り採用する
→③アーリーマジョリティ(34%)…「リスクはないぞ」と思ったら、採用する
→④レイトマジョリティ(34%)…「使わないと困るな」と思ったら、採用する
→⑤ラガード(16%)…なんだかんだ言って、最後までなかなか買わない
顧客全体をこのように整理して考えると、冒頭の「興味を持つけど、なかなか買わない」のは、③の「アーリーマジョリティ」以降の顧客であることがわかると思います。このグループの顧客は、リスクがあるものには決して手を出しません。実際に買うのは「使っている人が既に存在しているから、リスクはない」とわかった後。その人たちが、全体の実に84%もいるのです。見込客が10人いたら、8人以上がこのタイプです。
言い換えれば、この人たちに新商品の良さを一生懸命になって売り込んでも、まず採用しません。念頭にあるのが「リスク回避」なので、最初に聞いてくるのが「採用実績はあるのか?」。しかし新商品はそもそも採用実績がほとんどありません。話はすれ違う一方で、商談がなかなか進まないのです。
商談を野球にたとえると、バットを振ってもヒットにならないボール球。全体の実に84%もあるのです。
ヒットを打つには、ストライク球に狙いを絞ること。つまり、①の「イノベーター」と、②の「アーリーアドプター」を狙うことです。このグループの顧客は、新商品が役に立ち、「これで他社と差別化できる」と考えれば、ある程度のリスクを取って採用します。「採用実績がない」ことは、この人たちにとっては朗報でもあります。他社と差別化できるチャンスだからです。
しかしこのストライク球は、全体の16%しかありません。
では、ストライク球はいかに見極めればよいのでしょうか?ポイントはいくつかありますが、個人的な経験では…
□ 採用実績を気にする顧客のほとんどは、③〜⑤のグループ(=ボール球)
□ 採用実績はほとんど気にせずに、むしろ「何ができるか」を気にするのは、①〜②のグループ(=ストライク球)
このように指摘されると、「ああ、自分の経験でもそうだ」と感じる方も多いのではないでしょうか?
私もマーケティングを学び始めた時、イノベーター理論でもまったく同じことを指摘していることを知り、「なるほど!」と思ったことをよく憶えています。実務の経験と理論が結びつくと、とても腹オチしますね。
新商品立ち上げは、まさに時間との闘い。ストライク球に集中したいものです。
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