ある講演の質疑応答で、こんな質問をいただきました。
「マーケティングアプローチで新商品開発を進めようとすると、まずは調査して、その数字で判断する、というように、ともすると数字ありきで考え勝ちです。どういうところを気をつければいいのでしょうか?」
私は次のようにお答えしました。
実際にマーケティング調査をすると、ともすると膨大な情報と格闘しなければならないことも少なくありません。実は私自身、会社員だった頃に、マーケティング情報と調査結果の分析だけで、数ヶ月間を費やしたことがあります。
確かに数字で考えることは重要です。
しかしその上であえて申し上げたいのは、「数字はいったん忘れましょう」ということです。
新商品開発でまず把握しなければならないことは、「お客さんが本気で買おうと思うかどうか」です。
数字で考えるのは、その仮説を作り、検証するためです。
しかし新商品を立ち上げるかどうかを数字で判断しようにも、そもそも数字だけでは、どんな基準で判断するのかを決めるのは難しいものです。
たとえばある新商品開発を検討していて、その類似商品の普及率が現在3%とわかったとします。これをどう判断するか?
「まだ3%だから、可能性があるので、新商品開発をすべきだ」
「既に3%普及しているから、先行業者に追いつけないので、新商品開発は止めるべきだ」
数字だけで、新商品開発をすべきかどうかを判断するのは難しいですよね。
結局、本当にお客さんが買うかどうかは、実際にお客さんに検証してみないとわかりません。
だからまず数字で把握した上で仮説を作り、その仮説を検証しながら、確度を上げていくしかないのです。
たとえば、取引の聞き取り調査に基づいて「お客様はこんな課題がある」という仮説を作り、その仮説に基づいて試作品を作り検証するために取引先に持っていくと、それがきっかけでまったく新しい課題を掘り起こせることがよくあります。
リアルなお客様に聞き取り調査を行い、調査結果をチームで議論して仮説をチューンアップして、さらに試作品でお客様に検証することで、お客様も商品を開発する側も気がつかなかった新たな新商品のヒントが見つかるのです。
アンケート調査だけで判断していたら、このような新しい課題は見つけられないですよね。
だから私は、新商品開発ではこのような仮説を作るために数字を使うべきだと思います。
机上で数字だけで判断するのは危険ではないでしょうか。
一方で、数字で判断すべき分野もあります。
たとえば定点観測する場合、数字はとても重要です。景気動向とか、内閣支持率の推移は、まさにその典型ですね。私も、講演では必ずアンケート調査を行い、過去の講演と比較しながら、「今日、参加された皆様は満足されたか?どういう改善点があるか」を把握しています。
学校の試験で合格・不合格を判断する場合も、同様です。
これらは過去の豊富な数字の積み重ねがあるから、高い確度で数字で判断できるわけです。
しかし新商品開発は、逆に不確実性が高い分野です。
だからこそ、数字を把握した上で、数字だけで判断せずに、仮説を立てて検証することが必要だと思います。
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