あえて期待値を下げ、新ビジネスを生み出す


朝活勉強会「永井塾」で、こんなご質問をいただきました。

『永井さんはいつも、「顧客満足=提供価値−事前期待」といってますよね。
自分の業界ではお客様の期待値がどんどん上がり、現場での負担が多すぎるのが現実です。
「逆に期待値を下げて、顧客満足を高める」って、アリなのでしょうか?』

実はまさに最近、そんな経験をしました。

私は毎月、決まった理容室でカットします。まずカット数日前に理容室に電話して担当理容師さんを予約。「この日時がいいな」と思っても理容師さんがお休みのこともしばしば。数日後にカットします。軽くマッサージしてくれたり、洗髪や整髪料をつけたりして料金も結構します。1時間ほどかかります。行き帰りも1時間。

つまりサービスは、カット、洗髪(シャンプー・リンス・トリートメント)、整髪料、マッサージ。一方で私のコストは、数千円の料金+合計2時間の時間。手厚いサービスは料金に見合っているとは思いますが、「時間がもったいないなぁ」と感じることもしばしば。

ある日、近所にQBハウスがあるのを見つけました。ご存じの通り10分・1080円でカットしてくれます。
「技術はどうかな?」と思ったのですが、店の入口にある説明を読むとしっかりしているようです。
入口には緑・黄・赤のランプがあり、待ち時間もわかります。この日は黄色で待ち時間5〜10分。2名待ち。「ものは試し」と入ってみました。

まず自動券売機で1080円のチケットを購入。椅子に座り順番を待ちます。座った順番に散髪。場所取り不可という割り切り。店員は理容師さん2名だけなので順番管理はしていません。

すぐに私の順が来ました。以前カットした直後のスマホ自撮り写真を見せ「これでお願いします」。カットが始まりました。バリカン、はさみはすぐ手に届く所にあり効率的です。一通りカットが終わりスタイル確認。意外といい仕上がりです。この後、普通の理容室だと切った髪を洗い流すのですが、ここでは天井から下がっているエアシャンプーという強力掃除機で吸い取ります。ちゃんと吸い取り、切った髪は残りません。

12分ですべて終了。待ち時間込みで20分弱。

いつもの散髪と比べて数分の一の料金。しかも1時間40分も早く終わりました。
おかげでこの日、記事を一本余分に書けました。

QBハウスは「髪のカット」という理容室の本質的なサービスに特化し、カットに関しては必要十分な技術を持っています。そして「洗髪」「整髪」「マッサージ」「店員が待ち順番を調整」といった付随サービス(=過剰サービス)はすべてやめ、「レジ打ちする」作業も廃止、お客さんが自販機でチケット購入するなど徹底的に合理化しています。

さらに洗髪不要なので店の水回り工事が不要になり、出店コストを大きく下げ、出店場所の制約もなくなります。

QBハウスでは常にカット待ちのお客さんがいます。顧客回転数を上げて、数分の一の低価格でもビジネスが成り立っています。

2017年、QBハウスは独自性がある優れた戦略を実行し高い収益性を達成・維持している企業を表彰する「ポーター賞」を受賞しており、「投下資本利益率、営業利益率ともに5年間の業界平均を大幅に上回っている」と評価されています。→詳細はこちら

 

冒頭のご質問の通り、時代と共に、お客様の期待値は常に上がっています。
しかし同時に、時代と共に、お客様が不要と感じる過剰サービスもいつの間にか生まれています。それらについては、あえて期待値を下げてもいいはずです。

QBハウスは一見当たり前の過剰サービスを見直し、それらは顧客の期待値を下げ、「低料金で迅速なサービス」という新たな価値を提供しています。

 

あの旅館「加賀屋」も、かつては宿泊客が到着後、茶菓子・煎茶・浴衣・観光パンフレットと、客室係が一つ一つ、8回訪問して部屋に持ってきていました。1時間かかることもありました。「できるだけ部屋に伺い、お茶を差し上げるのが理想の接客」と考えられていたためです。しかし到着して早く温泉に行きたいお客さんにとっては過剰サービスです。そこで2017年から訪問は3〜4回程度に減らしています。(参考:日経ビジネス2018.1.22 特集『「おもてなし」のウソ やればやるほど顧客は逃げる』)

 

過剰サービスを見直すことは、新たなビジネスを生み出したり、既存ビジネスを強化するための切り口になり得るのです。

 

 

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