ここは皇族もお泊まりになったという由緒あるホテルです。決して安くはありませんが、風情があって落ち着きもあり、サービスも行き届いているので、私は特別な日によく泊まっていました。お客さんもゆったりと過ごす大人が多くいました。
ある日、宿泊予約サイトで、このホテルが格安で泊まれるというキャンペーンをやっていました。
「あれ、このホテル。だいぶ変わったなぁ」
ホテルに行くと雰囲気が一変していました。若者中心で、東南アジアからのお客さんも多く、ホテル内が混雑しています。従業員も頑張ってサービスしていますが、かつてのように細かいサービスまで手が回らないようです。以前は多数派だった「大人のお客さん」も、肩身が狭そうです。
その後も数回行ってみました。確かに格安です。でも特別な日に泊まるホテルではなくなってしまいました。
このホテルは大幅値下げをした結果、賑わうようになりましたが、100年かけて築いてきた「少々高くても、特別な日にゆったり過ごしたい」というお客さんが離れてしまったのです。
こうして離れたお客さんは戻りません。そして客単価は下がってしまったようです。
値引きで集まるのは、安さ目当てのお客さんだけです。
値引きすると、お客さんが集まって、一時的に売れるようになります。
しかし同時に、価格以外の価値を認めて下さるお客さんは、静かに離れていくのです。
こうなると、元の価格に戻しても、お客さんは戻りません。
このことが顕著に出ているのが、大塚家具です。
大塚家具は、経営主導権争いが一段落した後、「富裕層向けに高価格帯を売る」戦略から、「ファミリー層に中価格帯をお手頃価格で売る」という戦略に大転換。
2015年4月には、大々的に「おわび」セールを行いました。この月は前年比70%増のお客さんが来ました。
さらに2015年11月には、「売り尽くしセール」を行いました。この月は対前年比30%増のお客さんが来ました。
しかし対前年比二桁増の月は、この2回だけ。他の月はほとんど対前年比マイナスです。
特に「おわびセール」1年後の2016年4月は、対前年比45%のマイナス。
また「売り尽くしセール」1年後の2016年11月も、対前年比40%のマイナスでした。
(以上、大塚家具「月次情報」より)
経営主導権争いの時には100億円あったといわれるキャッシュは、あっという間に目減りして、今は経営危機に瀕しています。
値引きは一時的にお客さんが集まり、賑わいますが、徐々に会社の体力を失わせます。
やはり、「値引きは麻薬」なのです。
お客様にとって、価格はあくまで「買う理由」の一要素。価格以外の価値を高めることが大切なのです。
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