かつて「ユニクロ野菜」と呼ばれた新事業をご存じでしょうか?
ユニクロを展開するファーストリテイリングは、2002年に生鮮野菜の生産・販売事業「SKIP」を始めました。「なぜアパレルのユニクロが、野菜を?」と思ってしまいますが、勝算はあったのです。
ユニクロはアパレル業界で生産・流通合理化を徹底してムダを省き、低価格でよい商品を提供してきました。彼らから見ると、野菜や果物の生産と流通はムダだらけに見えました。「アパレル業界で培った合理化スキルが活かせる」と考えたのです。しかも当時、食の安全・安心に人々の注目が集まり始めており、安心して食べられるおいしいものがなかったのです。チャンスがあると考えました。
「安くていい衣料を消費者に届けてきたユニクロでの経験は、食の世界でも活かせるはずだ」と考えた担当者が、新規事業としてSKIPを役員会に提案しました。役員は全員反対でしたが、社長の柳井さんだけは違いました。
「やってみろ」
2002年、こだわり野菜を実店舗9箇所とネットで販売するSKIPがスタート。
実は当時、かくいう私もこのSKIPの野菜を注文していました。美味しい野菜でした。
しかしSKIPは、ファーストリテイリング史上で最大級の大失敗プロジェクトになり、一年半後に30億円の大赤字を出した末、担当者と柳井会長は撤退記者会見を開きました。
「会社を辞めるしかない…」と覚悟を決めた担当者に、柳井さんはこういったそうです。
「一回失敗したくらいで何をいっている。経験を次に活かせ。そして、カネを返せ」
そして柳井さんは、社内の課長職以上を全員集めて、反省会を開催しました。マネージャーたちは「あの野菜事業はとんでもない」と率直な意見を出し合いました。反省ポイントは3つありました。
①顧客ニーズの把握が甘かった。「よいものを作れば売れる」という商品中心の考え方で、顧客の視点がなかった。多忙な主婦は1カ所で全部買いたいと考えていたが、SKIPは野菜だけ。しかも通販で選べない。
②野菜の生産・流通・小売りの全行程について勉強不十分だった。ユニクロは「農産物の企画・生産・流通を全部コントロールすればOK」と考えた。しかし実際には、農産物業界の人たちは何十年も苦労してきた。ファーストリテイリングはアパレルでは業界経験を蓄積していたが、農産物業界では経験を持っていなかったのである。
③パートナーである関係者への影響に関する認識が甘かった。農家、出店先の百貨店などの期待を裏切ってしまった。
担当者は、この反省会の結果を小冊子にまとめました。SKIPの大失敗から、ファーストリテイリングは確実に学んだのです。
数年後、担当者は大赤字だったGU事業の副社長を任されました。SKIPの大失敗から「消費者にインパクトを与える商品が必要だ」と考え、990円ジーンズを投入。大ヒットさせてGUは黒字化し、息を吹き返しました。
しかしその成功も長くは続きません。1年経つと売上は前年を割り始めました。
そんな時、担当者はGU社長に指名されます。ちょうどH&MやZaraなどの強力な外資系ファストファッションが次々と日本に上陸している時期。廉価版ユニクロなんて誰も求めていません。どういう商品があれば消費者は嬉しいかを考え抜きました。
女性社員に「どういう服が欲しいか?」聞いて回ると、「日本人がデザインしているファストファッションって、ありそうでない」。
これがヒントになり、外部デザイナーに委託していたのを、自社デザイナーに切り替えた。その後GUは成長を続けています。
「数え切れないほど失敗をしている」が口癖の柳井さん自身、「一勝九敗」という著書も出しています。
ユニクロは数多くの新しい挑戦を行い、数多くの失敗もしていますが、失敗しても素早く見切って損切りしています。そして失敗からは確実に学んでいます。だからユニクロは成長しているのです。
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