私たちはこう考えがちです。
「注目すべきは熱狂的な顧客だ。たとえばハーレーにはハーレーの刺青をしたり、アップルには新製品が出るたびに徹夜で行列する熱狂的な顧客がいる。そんな熱狂的な顧客を生み出すことを目指すべきだ」
しかしこの考え方は「大間違いだ」という人がいます。それがバイロン・シャープです。
南オーストラリア大学の教授であり、同大学のアレンバーグ・バス研究所のマーケティングサイエンスディレクター。
100本を超える学術論文を発表しています。
彼は豊富なデータをもとに、従来のマーケティングの常識を次々と覆しています。
この熱狂的顧客のテーマについては、彼の「ブランディングの科学」という本で紹介されています。
この本に書いていないデータも補足しつつ、ご紹介します。
まずハーレー。1995年に米国の”American RIDERS”という雑誌で「バイク乗りの真実」というハーレーのオーナーを分析した特集があります。この記事ではハーレーのオーナーを6つに分類しています。
ハーレー命で典型的な熱狂的ハーレーユーザーは“Hard core”と呼ばれる顧客グループです。彼らは全体の9.7%を占めます。低所得で酒を愛し、乗車時にヘルメットなどはせず、収入のほとんどをハーレーの部品に注ぎます。しかしハーレー全体の売上の3.5%しか貢献していません。
大型バイク愛好家は“Hog Heaven”と呼ばれる顧客グループです。彼らは全体の8.7%を占めます。比較的高収入でハーレー全体の売上の9.4%を占めますが、そんなに頻繁にハーレーに乗りません。
全体の39.8%と一番大きな比率を占めるのが“Dream Riders”と呼ばれる「取りあえずハーレー買ってみた客」です。高学歴・高収入で、キチンとヘルメットをかぶり、近所でハーレーを乗り回します。売上の47.7%と半数近くを占めますが、ハーレーへの満足度は低いままです。
つまり熱狂的なハーレー顧客は売上のうちのごく一部。全体の半数があまりハーレーに乗らないライトユーザーなのです。
では、アップルはどうでしょうか? やや古いデータですが、2002〜2003年に米国でパソコンの再購入率を調べたデータがあります。
デル 71%、アップル 55%、HP/コンパック 52%
実はシェアが高いほど再購入率は高くなります。アップルは低いシェアを考えると再購入率は高く健闘していますが、これは他社パソコンと非互換なことで説明できます。熱狂的顧客の影響は見られません。実際、ほとんどのアップルユーザーがMacでやりたいことは、メールや書類作成など。Windowsパソコンと比べて大きな違いはありません。
現実には、あのハーレーもアップルも、熱狂的ユーザーは少数派なのです。かく言う私はアップルしか買わない熱狂的ユーザーですが、私は少数派なのですね。
ですのでビジネス的に考えると、最重要なのは熱狂的ユーザーではなく、ブランドのことをあまり深く考えずに売上に大きく貢献するライトユーザーです。
この考え方に基づくと、マーケティング施策も大きく変わります。
マーケティングの常識は、常に変わっていきます。
ひたすら勉強あるのみです。
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