私は有り難いことにベストセラーを何冊か書く機会をいただきましたが、一方で全く売れない本も書いています。実は評価が高くても、必ずしも売れると限りません。これって考えてみれば、不思議です。
「偶然の科学」(ダンカン・ワッツ著)を読んでいたら、その理由がズバリ書かれていました。 結論からいうと、人気作品になるには、作品の質も大事ですが、それ以上に「運とタイミング」が大切だということです。
ワッツは、あるソーシャルネットワークの協力を得て、こんな実験をしました。
まず会員1万4000人を8グループに分類。会員は無名バンドの曲を聴いて採点し、欲しい曲をダウンロードするようにします。この時、曲名とグループ内のダウンロード回数だけ表示されます。8グループが完全に切り離された状態で、各グループ内の曲の順位がどう変わるかを調べたのです。
つまり8つの仮想的な「パラレルワールド」を作り、それぞれの世界の順位変動を比べてみたのです。
順位が品質だけで決まるのならば、どのグループもほぼ同じ順位になるはず。 しかし結果は、グループ毎に順位はバラバラでした。ある時点で人気な曲はさらに人気になり、不人気な曲はさらに不人気になりました。また最高評価の曲でも1位になれない時もあり、最低評価の曲でも健闘することもありました。ちなみに高評価な曲は、低評価な曲よりも平均して順位が上でした。
これは、肌感覚にとても近い結果ではないでしょうか。
当初のわずかな優位の差が、時間経過で大きく拡がる状況を「累積的優位性」といいます。ワッツの実験でわかるのは、人気の差はわずかな人気のバラツキによる累積的優位性で決まるということです。
モノゴトの結果は一つの要因では決まりません。たとえばベストセラーを生むには、できる限り高品質の本を書くことは大前提。その上で、偶然と小さい行動の積み重ねと個々の相互作用により結果が決まります。
つまり運とタイミングが重要なのです。
現実の社会でも、最初の小さなランダムな変動が次第に大きくなり、長期的に大きな変動をもたらします。中国で蝶が羽ばたくと、海の彼方でハリケーンが発生するという、カオス理論の「バラフライ効果」にも通じる現象が起こるのです。
しかし人は、この「運とタイミング」をなかなか認められません。今があるのは「何らかの必然」と思い込んでしまいます。これは心理学者が「遅い決定論」と呼ぶ傾向です。
さらに「以前から結果はわかっていた」と考える「あと知恵バイアス」もあります。 ワッツは著書で、ある心理学者が実験で被験者に未来を予測させ、結果が出た後に再び面談した結果を紹介しています。多くの被験者は決まって、当たった予測は「自信があった」、外れた予測は「自信はなかった」と語りました。当たった結果だけは「前から分かっていた」とあと知恵で思い込むのです。
何かに成功した人が「私が成功した理由は、○○○と□□□だ」と語ることがありますが、これも「遅い決定論」と「あと知恵バイアス」の産物です。
このように私たちがなかなか過去を正しく評価できないのであれば、どうすればいいのでしょうか?
ワッツは「測定と対応に専念せよ」と提唱しています。
ファッション業界では流行を予測しますが、外れることも少なくありません。そんな中で、ZARAは流行予測を一切せず、「測定と対応」に専念しています。
繁華街など人が集まる場所に調査員を送り、人々が着ているものを観察させ、何が受けるか案を大量に出し、様々な色、生地、スタイルの商品を少量生産し店に届けて何が売れ何が売れないかを測定し、この情報を元に売れる商品の製造を拡大します。新しい衣料のデザインから全世界販売まで2週間で出来る仕組みを構築しています。
現代のビジネスでは、何が起こっているのかを察知し、即対応できることがますます求められているのです。
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