2023年6月30日の日本経済新聞一面に、こんな特集がありました。考えさせられる内容でした。
『テクノ新世 「ビッグ・ブラザー」姿現す日』
ポイントをピックアップすると…
・中国の監視カメラによる監視技術が、アフリカ諸国などに浸透中
・中国は政府主導で、この2005年以降40ヶ国に輸出
・西側諸国は「監視技術? プライバシー侵害でイヤだよね」となりがち
・アフリカ諸国は「中国製のカメラで監視?別にいいよ。犯罪がなくなり暮らしやすくなった。何が問題?」
・作家オーウェルは1949年にディストピア小説「1984年」で、あらゆる言動を国家が監視する近未来を描いた。しかし今や監視社会は安心安全の理想郷の姿を装う
・一方で使途を逸脱すれば権力の暴走の危険もはらむ。法の支配と人権の配慮は?
…という内容です。
歴史の経緯を考えると、悩ましい問題ですね。
西側諸国もかつて犯罪が多発してきました。しかし数百年間かけて「犯罪は厳罰」「倫理的に振る舞うべきだ」という価値観が徐々に浸透して、信頼社会が構築されました。
しかしデジタルの仕組みを使えば、すぐに「犯罪すると損」という社会が構築できます。そして国民も「安心して歩けるようになった」と歓迎しています。
監視技術を導入する国は、西側諸国から「権力の暴走を生む」と言われてもピンとこないでしょう。国内犯罪は減りますし、政権側からすると権力強化はむしろ歓迎されるかも知れません。
監視技術を輸出する中国政府は、彼らの課題に確実に応えているわけです。中国政府からすると「みんなハッピーで、誰も困っていないじゃん。何が悪いの?」なのかもしれません。
00年代に中国で電子マネーが普及した時のこと。アリババが電子マネーの決済履歴を活用し、融資の際に借り手の信用度を貸し手に提供する「芝麻信用」というサービスを始めました。
「個人情報を勝手に使うのってダメでしょ」と思われがちですが、信用スコアが高い人は有利な条件で融資を受けられるので、利用者は積極的に情報を提供したそうです。現実的な判断ですよね。
一方で西側諸国がこのような監視技術を懸念しているのは…
・よき振る舞いは、倫理観に基づくものなのか?
・よき振る舞いは、損得勘定に基づくものなのか?
この辺りの価値観の違いが生まれてくる懸念が、根底にあるのかもしれません。
「損得勘定でよき振る舞いをしよう」という考え方は、「損しなければ、勝手に振る舞ってもいいんだ」となりがちです。
現在、デジタル監視技術を導入しているのは、人口が急増する発展途上国です。デジタル技術の活用で、従来の西側諸国とは違う価値観を持つ国が、急速に増えつつあることに対する不安が背景にあるようにも思います。
そして50年〜100年後に振り返ると、人間の価値観が大きく変わっていく過渡期がこのタイミングなのかもしれませんね。
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