TBS系で放映中のドラマ「VIVANT」、実に面白いですね。
才能とお金を惜しみなくふんだんに掛けた作品に仕上がっています。
主演の堺雅人さんを筆頭に、阿部寛さん、役所広司さん、松坂桃季さん、二階堂ふみさんといった超主役級の俳優を擁し、練りに練った、意外性だらけだけど破綻がない脚本に加えて、安易にCGに頼らない本格的な現地ロケ。
堺雅人さんについて、私は2020年刊行の拙著「世界のエリートが学んでいるMBAマーケティング必読書50冊を1冊にまとめてみた」(以下「MBAマーケ50冊」)で、バイロン・シャープの最新マーケティング理論を紹介する際に、事例として紹介しました。
VIVANTを見て、この事例の考察をアップデートする必要があると思いましたので、まとめたいと思います。
まず「MBAマーケ50冊」でご紹介したのは、下記でした。
—(以下、サマリー)—
・『強いブランドは「このブランドと言えば○○」という強いポジショニングを確立している」と思われがちだが、「これは間違い」と言うのが、バイロン・シャープ。
・バイロン・シャープはむしろ「強いブランドとは、より多くの商品購買シーンで思い出されるブランド」と主張する。このような購買シーンのことをCEP(カテゴリー・エントリー・ポイント)と呼ぶ。
・これがよく分かるのが、堺雅人さんの事例。
・堺雅人さんは2013年のドラマ「半沢直樹」で大ブレイク。視聴率45%。
・しかし続編は2020年。7年かかった理由は不明だが、この7年間は堺さんにとって意味があった
・続編を翌2014年に放映したら、大ヒットになった筈だが、その後、役者として演じられる役が狭まった可能性がある
・天才肌の役者だった渥美清さんは、「男はつらいよ」の寅さん役が大ヒットし、何をやっても「寅さん」に見えるようになった
・「ウルトラセブン」でモロボシ・ダンを演じた森次晃嗣さんも、その後何を演じても「ダン」としか見てもらえず、苦しんだ経験があった
・堺さんはその後、NHK大河ドラマ「真田丸」で主演を演じた上で、半沢直樹続編を受けた
・しかしもともと堺さんは、クセの強い『南極料理人』『クヒオ大佐』『ツレがうつになりまして。』などの頼りなくクセがある役や、『リーガル・ハイ』の毒舌で偏屈な弁護士役などを演じられる、実に幅がある役者
・しかし「堺雅人=半沢直樹」というブランド連想が強くなりすぎると、「渥美清=寅さん」や「森次晃嗣=ダン」のように、演じられる役が狭まる
・だから「半沢直樹」続編に7年置いたのは、堺さんの役者生命を考えると、大いに意味があった
—(以上、サマリー)—
そして2020年の半沢直樹続編の後、堺さんはあまり目立った活動はなさっていませんでした。
「次は何を演じるんだろう?」と思っていたところで、今回のVIVANT主演です。ネタバレになるのであまりここでは書きませんが、実に幅広い役を演じておられます。
ここで参考になるのが、現在U-NEXTなどで配信されている「VIVANTナビ」でのインタビューです。堺さんはこう語っておられます。
—(以下、インタビュー内容)—
(シナリオを見て)
今まで見せたことのない堺の色々な顔を出させたいという ものすごい愛情を感じたんですよね。 僕自身把握していなかった、僕の新しい一面を発見していく物語なので…
—(以上、インタビュー内容)—
このインタビューを見て、なぜ堺さんが今回の役を受けたのか、少し分かったような気がしました。
堺さんのインタビューから感じるのは、VIVANT企画側が、この堺さんのお立場に真正面から応える役を用意した上で、作品も大ヒットも両立させるという、考え抜かれた周到な戦略です。
全10回中、現時点で第7回まで見た感想ですが、VIVANTではこれまで堺雅人さんが演じてきた様々な顔が出てきます。これだけの様々な顔を演じられる役者さんは、堺さんだけでしょう。
冒頭の話に戻ると、バイロン・シャープは「強いブランドとは、より多くの商品購買シーン(CEP)で思い出されるブランド」と考えました。
これだけの様々な顔を演じられる堺さんが出演して、はじめてVIVANTが作品として成立していますし、私たちも楽しんでいます。堺さんにとっても「半沢直樹」に勝るとも劣らぬ代表作になり、ご自分の新しい可能性を発掘できた作品になったでしょう。またブランド論的に言えばこの作品は堺さんのCEPを一気に増やす可能性も高いと思います。
一ファンとしても、今後の展開が楽しみですね。
※当ブログは、放送全10回のうち、8回分が放送された9月4日(月)の時点の情報に基づいて書いています。
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