廃棄されていたいびつな真珠が、高く売れる理由


バロックパールってご存じでしょうか?

「知らない…」という人の多くは、おそらく男性。
「知ってる、知ってる」という人の多くは、おそらく女性でしょう。

バロックパールとは、ゆがんだ形の真珠のことです。

真珠は完璧に「真円」の形のものが好まれ、流通しています。しかし真珠は、アコヤガイという貝で養殖された天然物です。天然物なので「真円」の真珠は全体の約2割。8割はいびつな形だったり突起があったりするバロックパール=いびつな真珠は、これまで廃棄されていました。実にもったいないことですよね。

いま、そのバロックパールが人気なのです。

まだ大手メディアでほとんど取り上げられていないので、新聞記事や一般雑誌記事にはあまり掲載されていません。しかし女性誌では取り上げられています。

試しにX (旧Twitter)で「バロックパール」で検索してみてください。色々と出てきます。

バロックパールをブランディングしている会社もあります。

その一つが「ボンマジック」のバロックパールジュエリー

パロックパールを2つ使ったピアスは8〜12万円、ネックレスは30万円以上です。知人から聞いた情報ですが、ネットに掲載されるとすぐに売り切れるそうです。

なぜ廃棄されていた「いびつな真珠」が、何十万円で飛ぶように売れるのでしょうか?

「真円」の真珠は、冠婚葬祭や豪華なディナーなどのフォーマルなドレスに似合います。

一方でコロナ禍で、白いシャツや黒のパンツ・デニムなどのカジュアルでシンプルなファッションを着こなす機会が増えました。しかし真円の真珠は、こんなファッションにはちょっとフォーマル過ぎて、ちょっと堅苦しい感じもします。もっとシンプルなファッションにあった、自分らしいジュエリーの方がファッションにフィットしますよね。

そこでこのバロックパールが注目されているのです。

注目されている理由は「その形が世界に一つしかない」からです。過度にフォーマルではない一方で、自分らしい絶妙な存在感を表現できます。

もう一つは「抜け感」。高級ブランド真珠は肩に力が入っている感じがします。でもバロックパールなら、それなりに「お金は困ってないんだけど、これでいいわ」という独特の抜け感が演出できます。

つまり「(いびつな)バロックパール」に、「世界に一つしかない自分らしい存在感と抜け感」という意味を与えることで、「ボンマジック」のバロックパールジュエリーは飛ぶように売れているのです。

バロックパールの例は、他にもあります。

ジュエリーブランド“SEVEN THREE.”(三重県伊勢市)が手掛ける「金魚真珠」です。この会社の社長・尾崎さんは、祖父が伊勢志摩で真珠の養殖に60年間従事していました。養殖真珠はできるまで3年かかりますが、流通するのは「真円」の2割だけ。「この形は、いい」と思っても買ってくれる人がいませんでした。

ある日、真珠の選別をしていると、全体の1割ほどの突起がある真珠が、尾びれをなびかせて泳ぐ金魚に見えました。そこでそんな真珠を「金魚真珠」と名付けて、ECサイトに掲載したところ、数万円で売れるようになりました。(以上、金魚真珠は「日経クロストレンド」2021/9号 p.2-4を参照)

生産・流通業者から見ると「いびつな真珠」は、流通に乗せられない欠陥商品でした。

しかし顧客目線で「顧客にとっての価値」を考えた結果、「いびつな真珠」「自分らしさと抜け感が表現できる普段使いのボンマジック・バロックパール」、あるいは「同じモノは2つとない特別な金魚真珠」と再定義して、高くても飛ぶように売れるようになったわけですね

全く違う分野でも同じような話があります。「土用丑の日」の鰻です。

実は、土用丑の日の鰻が美味しいわけではありません。江戸時代に夏に売れない鰻を売りたいと相談を受けた平賀源内が、「『本日丑の日』と店頭に貼るといいよ」とアドバイスして、その店が繁盛し、周囲の鰻屋も真似し始めた、と言われています。(所説あります)

これも顧客の視点から、「夏場の鰻」を「丑の日に『う』がつくものを食べると夏バテしない」と再定義した発想です。

フランスの哲学者ジョン・ボードリヤールは、消費社会が到来した1970年に刊行した著書「消費社会の神話と構造」で、「商品とは『記号』である」と述べました。

現代社会では、あなたの商品に、どのような記号を付けるかが問われているのです。

あなたの商品には、どんな記号が付けられていますか?

   

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