人間の脳を超えるAI。我々はどうすべきか?


2024年3月10日の日本経済新聞に、トロント大学のジェフリー・ヒントン名誉教授のインタビューが掲載されています。

ヒントン氏は「AI研究のゴッドファーザー」として知られており、「AIが人類存続の危機をもたらす恐れがある」と考え、約10年勤めた米グーグルを2023年に突如退職し、話題になりました。

昨今、多くの識者が「AIが人間の脳の能力を超えるか否か」について議論していますが、ヒントン氏によると結論は出ています。

「私は50年もの間、AIを人間の脳に近づけようとして開発を重ねてきた。脳の方が機能的に優れていると信じていたからだ。だが23年に考えを改めた」

「人間が知識を共有するには非常に時間がかかるし、我々は死を免れることができない。一方でデジタルの世界では全てを『0』と『1』に分けて記録する。特定のハードウエアに依存せず、データを瞬時にコピーして全く同じプログラムを実行できる」

「現在の対話型AIは人間の脳の100分の1の規模でも数千倍の知識がある。おそらく大規模言語モデルは脳よりも効率的に学習できる」

「主観的な経験という観点から説明すると、AIは人間と同じような感覚を持てると考えている」

たしかに身近になったChatGPTなどを使っていると、「彼らは人間と同じ感覚を持っている」とリアルに感じます。

そしてデジタルの世界では、あらゆるモノが指数関数的に成長します。人間の脳を超えたAIは、またたく間に人知をはるかに超えて成長し続ける可能性があります。

私たちはどうすればいいのでしょうか?

経済学者のW・ブライアン・アーサーは著書『テクノロジーとイノベーション』で、「テクノロジーは生命を宿すかのように進化する。経済構造も、テクノロジーによってつくられていく」と結論づけています。

テクノロジー自体は、人間が生み出します。しかしテクノロジーが進化するプロセスを見ると、古いテクノロジーの組み合わせで新世代テクノロジーが自己創出され、旧世代テクノロジーを崩壊させ、テクノロジーを生み出した個々の人間の思惑を大きく超え、まるで生き物のように世代交代を続けていきます。

テクノロジーは経済構造や社会も変えます。

200年前の産業革命で生まれた繊維製造機は、繊維工場や紡績工場を生み出し、工場労働者の需要を生み出し、工場周辺に住宅が建ち、工業都市ができ、労働者階級が生まれ、彼らは団結して政治権力を持つようになりました。

ではAIのようなテクノロジーの進化に対して、私たちはどうすればいいのでしょうか?

アーサーは映画「スターウォーズ」に登場する「帝国軍」と、ルーク・スカイウォーカーのようなヒーローを対比させることでこのテーマについて語っています。

帝国軍は人間性を排除し、個性や意志の力を奪っています。一方のヒーロー側は、個性と意志を重視し、テクノロジーに飼い慣らされず、逆にテクノロジーを使いこなしています。

テクノロジーは、いったん生まれたら消滅することはありません。
だから私たちは、使いこなすしかないのです。

アーサーは著書『テクノロジーとイノベーション』をこのように締めくくっています。

「人間は挑戦を必要とし、意義を必要とし、目的を必要とし、自然との共存を必要としている。テクノロジーが人間からこれらを引き離すなら、それはある種の死をもたらす。逆にテクノロジーがこれらを高めるのなら、テクノロジーは人生を肯定する。私たちが人間であることを肯定しているのである」

人間の脳を超えるAIだけでなく、私たちは神の領域に近づいた遺伝子操作技術や、地球を破壊する核技術など、様々なテクノロジーを持つようになりました。

私たちは今後AIなどの最新テクノロジーについて、どのように接していくべきなのか、叡智を集め続ける必要があります。

そしてそれは、一企業の利益と相反することもあります。

冒頭の新聞インタビューではヒントン氏は、2023年11月にオープンAIがサム・アルトマンの解任を試みて失敗したことを例に挙げて「営利団体は、安全性よりもAIが生み出す利益を優先して判断している」と指摘しています。

将来歴史を振り返った時に、オープンAI経営陣によるこの時の判断は、「人類の未来に大きな影響を与えた」と判断される可能性があるかもしれません。

人間は歴史を通して様々な過ちを起こしてきました。これからも過ちを起こし続けることでしょう。

このように極度にテクノロジーが進化した時代だからこそ、私たちは人類の歴史や、過去の偉人たちが残して蓄積されてきた哲学や思想を、謙虚に学び続けることが必要なのだと思います。

   

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