表題を見てこう思った方、おられるのではないでしょうか?
「あれ? これミスタイプじゃないの? 『イノベーションでは先発者が勝つ』だよね。最初に市場に飛び込まないとイノベーションは起こせないでしょ。『ファーストペンギン』ってよく言うよね。」
実はこれ、広く信じられている誤解なのです。
例えば1995年、インターネット検索で世の中で初めて話題になったのは、グーグルではなく、AltaVistaでした。
セルゲイ・ブリンとラリー・ペイジがグーグルの原型を開発したのは翌1996年、グーグル創業は1998年。グーグルは最後発グループでしたが、先行者たちのネット検索技術が未熟なために検索精度が落ちるという欠陥を克服する技術を開発し、後追いから一気に追い越して、ネット検索市場を制覇しました。
Facebookもソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)として最後発でした。サービス開始はFriendsterが2002年、Myspaceが2003年、Facebookは2004年でした。2年も遅かったのです。
最後発のFacebookは、ハーバード大学内の交流を図るサイトとして始まり、その後、スタンフォード大学、コロンビア大学、イェール大学の学生からも「同じサービスが欲しい」という要望に応えているうちに、全米の学生が普通に使うようになりました。そして徐々に広がり、最終的にSNSの覇者になりました。
この事実を明らかにした名著が、アダム・グラント著「ORIGINALS」(三笠書房)です。
「成功する起業家はいちばん乗りを目指してリスクを恐れず全力投球し、アイデアを絞り込む」と思われがちですが、グラントいわく、これは「都市伝説」。
成功する起業家は後発。リスクを徹底的に避けてアイデアの量で勝負します。
本書でグラントはこんな数字も示しています。
■失敗率は先発企業が47%、後発企業は8&
■生き残った場合の市場占有率は、先発企業が平均10%、後発企業が平均28%
つまり先発企業は後発企業よりも失敗率が6倍高く、生き残ってもシェアは3分の1に留まるわけです。
「ええと……。『ファーストペンギン』は…?」
と思ってしまいますが、実は南極大陸で最初に海に飛び込むファーストペンギンは、海の中を泳ぐ恐ろしいアザラシの餌食になったりすることも多いわけです。
イノベーションで必要なのは、いちばん乗りになることではなく、市場の準備が整うのを待ち、市場のベストのタイミングで、ベストの商品を出すことなのです。
なかにはiPhoneのように先発企業が成功することもありますが、確率的に言うと後発は圧倒的に有利なのです。
ちなみにそのiPhoneでさえ、iPhoneの前にも「スマートフォン」と呼ばれる商品は沢山ありました。その中でもBlackBerryはiPhoneが発表された2007年には数百万台も使われていました。ジョブス風に言えば、iPhoneも先行するスマホの「イケていない」部分を「スマート&クール」に作り替えたわけです。
先発者は、未知の分野で試行錯誤して学ぶ必要がある上に、市場参入時期が早すぎると失敗します。
これに対して後発企業は、先発者が試行錯誤した結果を学べるし、タイミングも見計らえます。顧客が求めるタイミングで他よりもすぐれていればOKなのであって、いちばん乗りにこだわりすぎると、失敗するのです。
もちろん、遅れ過ぎてもダメです。iPhone発売の数年後に「iPhoneが売れてるみたいだから、追いかけて似たようなスマホを販売しよう」と思っても、もう勝負はついています。
狙った市場を虎視眈々と観察し続けて、商品を常に磨き上げ続けて、「いまだ!」というタイミングで勝負をしかける後発者が、イノベーションを起こせるのです。
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