「マーケティング部門、廃止しました」という会社


先日、知人と話をしていましたら、有名企業に勤める社員の方から、こんな話を聞いたそうです。

『ウチの会社、「マーケティング部門は何の役にも立っていない」っていうことで、マーケティング部門を廃止したんですよ』

なんでもセールス部門がとても強いそうです。

日本企業の深い病が垣間見えたように思いました。

会社によって様々な事情があるでしょうが、私が知る範囲では、多くの場合こんなパターンのようです。

①その会社は、営業部門がとても強い。顧客企業との強いリレーションを使い、寝技を駆使しながら案件を獲得してきた

②一方で世の中は「マーケティングが大事」という方向。そこで試しにマーケティング部門を作ってみた

③マーケティング部門から様々な情報を市場に出し始める。イベントを開催したり、SNSで情報発信したり、メルマガを送り始める

④しかしそれまで自分が社の代表として顧客に全情報を伝えていた営業からすると「オレのお客様に、オレが関与しないところでマーケティング部門が勝手に情報を送るのは、ケシカラン」となる

⑤「マーケティング部門は、百害あって一利なし。ビジネスにも貢献していない」が営業部門の総意となる

⑥かくして、マーケティング部門が廃止となる

こういった事案、ツッコミどころが満載です。

■「リレーション中心で、本当にいいの?」という問題

まず上記①「顧客とのリレーションが強い」こと自体は、必ずしも悪いことではありません。ただ、セールスでそれしか能がないとしたら、大問題。人事異動で人は変わりますし、リレーションだけで案件が獲得できるわけでないからです。

世界数千社の企業について法人販売の実態を調査したマシュー・ディクソンは著書「チャレンジャー・セールス・モデル」で、セールスを次の5つに分けました。

タイプ① 論客型……論議を怖れず顧客に自己主張する
タイプ② 一匹狼型……自信家。個人独自の技で我が道を行く
タイプ③ 勤勉型……誰よりも多く電話し顧客訪問する
タイプ④ 受動的問題解決型……要望には必ず対応する
タイプ⑤ 関係構築型……顧客のためなら必死に働く

そしてディクソンは全世界で6000名のセールスを調査して、各タイプ別のパフォーマンスを明らかにしました。

私たちは「セールスは、関係構築型が理想だ」と思いがちですが、実は最も業績が悪かったのが「タイプ⑤関係構築型」でした。逆に突出して好業績なのが「タイプ①論客型」でした。

この話を聞くと「それは米国の話でしょ。日本は違うよ」と思ってしまうかもしれません。確か日本では「タイプ⑤関係構築型」のセールスはいまだに多いのが現実でしょう。

しかしそんな日本でも、法人セールスで顕著な業績を挙げ、平均給与2200万円を誇るキーエンスのセールスは、まさに「タイプ①論客型」です。

「関係構築型セールスが多い」ということが、必ずしも「関係構築型セールスが理想の販売方法」とは限らない、ということです。

そして社内の全セールスを「タイプ①論客型」にする上で、「顧客の課題を解決する上で、自社製品・サービスが提供できる価値は何か?」を考え続けるマーケティング部門は、大きな力を発揮できるのです。

■「よく考えずにマーケティング部門を作るな」という問題

②で「世の中の流れだから、とりあえずマーケ部門を作ってみよう」というのも大問題です。本来のマーケティングは、会社の経営全体に関わることですし、経営企画、製品開発から製造・流通、さらに販売まで幅広く関わるからです。

もちろん③のように「最初はマーケティングコミュニケーションからやってみよう」というのもアリです。

その場合でも、「本来のマーケティングはこの範囲だけど、まずはここに絞ってやる」と考えた上で、「マーケティングから全社メッセージを出すために、他部門とも密接に協力・連携する」という視点は欲しいですね。

■「そのお客さん、アナタの所有物ではありません」という問題

④のように、会社を代表して特定の顧客企業を担当するセールスのことを「クライアント・レップ (Client Representative)」と呼んだりします。

この人は、お客様企業に対して、まさに自社を代表する役割を担っている訳です。

この結果、「オレのお客様に、オレが関与しないところでマーケティング部門が勝手に情報を送るのは、ケシカラン」となり勝ちなのですが、これはあくまでその人が担っている単なる役割です。

それにお客様は、クライアント・レップの所有物ではありません。1980年代ならば話は別ですが、現代のお客さんは、様々なメディアで情報を集めています。もはやセールス一人(または複数)で、お客さんが接する情報を独占できる時代ではありません。

加えてマーケティング部門が出す情報は、何らかの事業戦略に基づいて出されています。むしろそういった情報を、セールスなりの視点で解釈した上で、「私がマーケティング部門と交渉して、こういう戦略にしました」くらいの強かさが欲しいところです。

■「マーケティングの成果とは?」という問題

マーケティング部門の大きな役割の一つが、膨大な市場の中から、自社製品・サービスが想定する課題を抱える顧客を見つけ出し、案件締結まで繋げることです。

この仕組みを作るには、従来のセールスを変える必要があります。当然ながらセールス部門の協力は必須です。

しかし②のようにあまり考えずにマーケティング部門を作った会社は、この仕組みはまず作れません。ですので成果が上がらないのです。

 

かくして最悪の場合、「マーケティング部門は廃止」となったり、(廃止はあまりにも対外的にみっともないなぁ)と考える会社の場合は「マーケティング部門は規模を大幅縮小」となります。

こうしてビジネスはジリ貧になっていきます。

 

「マーケティング部門を作ったけども、イマイチ成果が出ない」という方がおられたら、改めて上記の視点で見直してみてはいかがでしょうか?

   

■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。