私は企業の若手リーダー研修で、実ビジネスの課題を話し合うワークショップをよく行います。
たとえば「心理的安全性」「内発的動機付け」「組織文化」「変革の方法論」などの考え方を学んでいただいた上で、自社の具体的な問題をどう解決するかを議論します。
ここで、多くの会社でよく出てくるテーマがあります。
それは「すぐに辞める若手社員」。
時間をかけて採用し、1〜2年かけて育てた若手社員がかなりの比率で辞めてしまうのは、現場のリーダーにとっても、経営の観点でも、大きな損失です。
では彼らはどこに行くのでしょうか?
その1つのヒントが、2024年10月25日の日本経済新聞の記事『ネトフリ、日本で働き方改革』にありました。内容は、ネットフリックスが日本の映像制作の現場を変えつつあるという話です。
私も数ヶ月前にネットフリックスへ加入し、よく観ています。コンプラ重視のがんじがらめでマンネリ気味のテレビドラマと違って、実に面白いですね。
一方でこの記事によると、かつて日本の映像制作現場は、こんな感じだったそうです。
・昼食の休憩時間を確保できず作業を続ける
・寝る時間がない(「朝まで撮るぞ!」)
・罵声も飛び交う(「何やってんだバカヤロー」)
・セクハラも横行(父親役が娘役に「二人だけで稽古しよう」)
「映像製作の現場で仕事をしたい」という人は多いでしょうけれども、実際の職場環境がコレではなかなか辛いですよね。
ネットフリックスでは、これを大きく見直しました。
・1日12時間を超える撮影は辞め、週1回は撮影休止
・相手に敬意を持つ言動をするよう講習を義務づけ(リスペクトトレーニング)
・性的なシーンでは俳優と制作の間に調整役となるインティマシー・コーディネーターを日本で初めて配置
職場の様々な課題を、具体的な仕組みで改善する手を次々と打つことで、労働環境を大きく改善しているわけです。
記事の中でも、ヒットドラマ「地面師たち」の高橋信一プロデューサーの『(コストは増えスケジュールは長くなるが)スタッフや俳優を守るためなら最低限の必要経費。(中略)搾取に近い形の労働で成り立つ作品は認めない』という言葉を紹介しています。
では、日本の映像製作現場でできないことが、なぜネットフリックスでは可能なのでしょうか?
記事ではこの部分についても分析しています。
ネットフリックスでは、各部門毎に現場を熟知する人材が制作側に集まっています。
一方で日本では、原作権利を持つ出版社やテレビ局、配給会社が資金を出して製作委員会を作って、制作会社に委任します。ただ製作委員会には必ずしも現場経験者がいません。予算オーバーは製作委員会の理解が得られないので、制作会社は決められた制作費の範囲でやりくりします。その結果、しわよせは現場に行く構造になっているのです。
こうして両者を比較すると、ネットフリックスの職場環境の方が魅力的です。
ネットフリックス上陸前までは「映像製作の現場で働きたい」という人は我慢するしかなかったのですが、ネットフリックス上陸後は、優秀な人材ほど、自分の才能が活かせる場を求めてネットフリックスに移るのは明らかです。
こうしてネットフリックスは「職場環境を改善する→多くの才能の持ち主が集まる→面白い作品が生まれる→収益が上がる」という好循環を生み出しているのです。
同じ事は、あらゆる業界で起きつつあります。
いま様々な業界で、働きやすく、社員の能力を引き出して、成長する会社が増えています。
「すぐ辞める社員」は、「辛い職場」「自分に合わない職場」「停滞する企業」から、「働きやすい職場」「自分の才能を活かせる職場」「成長する企業」へと、大移動しているのかもしれません。
私だったら、貴重な人生の時間を投資して働くのならば、後者の企業を選びたいと思います。
あなたの職場は、働きやすく、自分の才能を活かせるでしょうか?
もしそうでなければ、その問題は、今後改善することでビジネスを大きく成長させる「伸びしろ」なのかもしれません。
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