ワタミのSUBWAY日本事業買収は、「ゴール逆算思考」の結果


先週の2024年10月29日、居酒屋チェーン大手のワタミが、サンドイッチチェーン世界最大手SUBWAYのフランチャイズ(FC)店を展開するというニュースが発表されました。

ワタミは10月25日付けで、米SUBWAYから日本で180店舗を展開する日本サブウェイを買収しました。10年で店数を2倍強の430店舗に、長期的には3000店舗を目指します。

つい「何で居酒屋のワタミが、サンドイッチをやるの?」と思ってしまいますが、私はこの発表を見て、思わず唸ってしまいました。

「この戦略は凄い。まさに『ゴール逆算思考』だ」

『ゴール逆算思考』とは、まず長期的に目指すゴールを考えた上で、そこから時系列的に逆算して「いつ、何をやるか」を考え抜き、その上で「今何をやるか」を考える思考方法です。

『ゴール逆算思考』は、ハロルド・ジェニーンが著書『プロフェッショナル・マネジャー』に書いた方法論です。

ジェニーンは米国でITTという企業のCEOに就任して58四半期連続増益を達成、18年後に辞任するまでに売上/利益20倍に成長させ、「フォーチュン500」で第11位の企業に育てた経営者です。

本書にはその方法論が書かれており、ファーストリテイリングの柳井社長は本書を「ボクのバイブル」と賞賛し、経営に取り入れています。

ワタミのサブウェイ日本事業買収は、『ゴール逆算思考』によって、ワタミが目指すゴールから逆算し、考え抜いた上で、チャンスを掴み取った結果なのです。

■そもそもワタミの経営課題は?

まずワタミの経営課題を考えてみましょう。

ワタミは1984年に居酒屋「つぼ八」のFC加盟店として創業・自社ブランドの居酒屋「和民」で成長し、シニア向け弁当宅配などにも参入しました。

しかしコロナ禍で本業の居酒屋事業は壊滅状態に。唐揚げブームに乗って「から揚げの天才」なども展開しましたが、唐揚げブームが去ると失速しました。

今後の成長をどうするかが、大きな経営課題だったわけです。

■ワタミはどう考えたか?

2024年10月30日の日経MJの記事「サブウェイFC マック対抗軸に」よると、ワタミの渡辺美樹会長兼社長は、日本経済新聞の取材に対し「総合外食企業を目指す。マクドナルドの対抗軸になりたい」と述べています。

この渡辺会長の戦略思考は、まさに『ゴール逆算思考』そのもの。そこで本記事を参考に、私なりに解釈してまとめたいと思います。

まず渡辺会長は、長期的なゴールをこう考えています。

→88歳で引退する24年後の2048年までに、グループ売上1兆円を実現したい

そして、ゴール地点の事業構成を、こう考えています。

→そのためには国内外食で3000億円、宅食で2000億円、アジアで1500億円、米国で3500億円

そして、「国内外食で3000億円」をどう実現するかを考えました。

→外食で主力業態を作り、国内3000店舗を展開する

しかし日本は人口が減り、市場は縮小します。
祖業である居酒屋は守りますが、もはや居酒屋だけでは成長できません。
日本の外食でダントツに強いのはマクドナルドです。
そこで、 マクドナルドに対抗するブランドを展開することを考えました。

そこで渡辺会長は、米国の人気バーガーチェーン『イン・アンド・アウト・バーガー』や『チックフィレイ』に接触していたそうです。

そしてその最中に、サブウェイが日本でパートナーを探している話が来て、「これだ!」と思いました。

■なぜサブウェイを買収したのか?

日本ではマックは、圧倒的なマーケットリーダーです。多くのハンバーガーチェーンがマックに挑んできましたが、巨人マックになかなか勝てません。ワタミがハンバーガーで戦っている限り、同じ状況に陥る可能性がきわめて大です。

しかしサンドイッチ対ハンバーガーの構図を作れば、「健康の軸」で対抗できます。 しかもワタミは、『ワタミファーム』で有機野菜を自社で作っています。サンドイッチならば、この強みも活かせます。

渡辺会長は記事でこう述べています。

「成長するためには何か武器が必要だった。このまま居酒屋や焼き肉の店舗をじわじわと増やしていっても、大きな成長は見込めない。拡大が見込める市場であるサンドイッチで勝負していこうと考えた。約300キロカロリーで(健康的な)おいしいものが食べられるというのはなかなかない」

サブウェイとの交渉には1年以上かかりましたが、ワタミが外食や野菜栽培といった現場と市場を知っており、さらに現場のオペレーションができることが評価されたようです。

「なぜ居酒屋がサンドイッチのフランチャイズを?」と思ってしまうワタミのサブウェイ日本事業買収は、渡辺会長が徹底した『ゴール逆算思考』を考え抜き、出会ったチャンスをしっかりモノにした結果だったのです。

「サブウェイがパートナーを探している」というタイミングに出会ったのは、一見すると偶然の幸運に見えます。しかしこの幸運を引き寄せられたのも、『ゴール逆算思考』を積み重ねて、この幸運がワタミにとって具体的に何を意味するかが見えたからです。

『ゴール逆算思考』で考え抜けば、偶然の幸運を引き寄せ、目指すゴールを実現する可能性をより高めることができるのです。

     

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