P&Gが製品販促で、P&Gブランドを重視しない理由


日本では、特にB2Cマーケティングの世界では、P&G出身者が大活躍です。P&Gが世界的な消費財メーカーであり、B2Cの世界でダントツのマーケティング力を持っているからです。

でも、P&Gがどんな製品を売っているのかは、意外と一般的には知られていません。P&Gが製品販促で「P&Gブランド」をP&Gの名前を極力目立たせないようにしているからです。

実はこれは、P&Gの用意周到なブランディング戦略なのです。

このことを理解するには、最初に簡単な「ブランドの構造」を理解する必要があります。

 

■ブランド構造の3つのパターン

ブランド構造には主に以下の3つのパターンがあります。

これは図のように、テーブルの天板(企業ブランド)と、天板を支えるテーブルの脚(製品ブランド)の関係で考えるとわかります。

①単一ブランド戦略

企業全体で1つの強力な企業ブランドを訴求します。単一事業を展開する企業に適しています。代表例はBMWやメルセデスです。

②複数ブランド戦略(エンドースト型)

企業ブランドと製品ブランドを組み合わせます。ソニーのように、企業ブランドが安心感を与えつつも、製品ブランドも個性を発揮します。

③個別ブランド戦略

企業ブランドは控えめにして、製品毎に強いブランドを育てる戦略です。幅広い商品カテゴリーを持つ企業に適しています。代表例がP&Gです。

 

■P&Gが「P&Gブランド」を強調しない理由

「個別ブランド戦略」のP&Gは、製品で独自ブランドを立ち上げ、製品毎に異なるポジショニングを打ち出します。理由は2つあります。

理由1:製品ポジショニングを最優先に考えているため

P&Gは、自社製品ブランドが消費者の特定のニーズに応えるために、市場で明確に差別化されることを最重要視します。そのために「P&G」の企業ブランドを強調せず、製品ブランドを強調しているのです。

理由2:ブランドイメージの希釈化を避けるため

ある一つのブランドが複数の製品にまたがると、消費者のそのブランドの認知がぼやけてしまうリスクがあります。これが「ブランドの希釈化」です。これを回避するため、P&Gは製品ごとに新しいブランドを立ち上げているのです。

■P&Gの実際の事例

具体的なP&Gの商品事例を見てみましょう。

【洗剤カテゴリー】
「洗浄力重視」のTideとは異なる「香り重視」のブランドとして、GAINを展開。

【シャンプーカテゴリー】
「フケ予防」のhead&shouldersに対し、「美髪ケア」をテーマにPANTENEを展開。

【食器洗剤カテゴリー】
「油汚れ特化」のDAWNとは異なり、「泡立ちと香り」を重視したJOYを展開。

【紙おむつカテゴリー】
「高品質追求」のPampersとは別に、「高コスパ」のLUVSを新たに展開。

このように、P&Gは一つの商品カテゴリーで複数のブランドを展開し、それぞれ異なるポジショニングを持たせているわけです。

でもついこう思ってしまいますよね。

「ブランド立ち上げって、莫大な予算が必要だよね。製品毎にブランドを立ち上げるって、ムダが多くない?」

■P&Gが「ブランド拡張」を採用しない理由

様々な企業のブランド戦略を見ていると、多くの企業はこの真逆をやっています。強力な既存ブランドを活かして、類似製品を展開する「ブランド拡張」を行っているのです。

例えば、強力なPampersの既存ブランド力を活かして、「Pampers light」のような高コスパ版を出す方法です。

一見、効率的な方法に思えます。

しかし、P&Gはこの方法を嫌います。ブランド拡張はブランドの希釈化を招き、既存の強力ブランドのイメージを損なう可能性があるからです。

高コスパ版「Pampers light」が世に出ると、「Pampers」の「高品質追求」という消費者のブランド認知は大きく損なわれてしまうわけです。

そして企業の想定する以上に、破壊的にブランドイメージが損なわれます。効率的どころか、逆に大きな損失を生んでしまうリスクがあるのです。

「ポジショニング」という概念を確立したマーケティングの大家アル・ライズ「ブランド拡張はNG」と指摘しています。

このようにP&Gが製品販促で「P&Gブランド」を重視しないのは、製品ブランドの希釈化を防ぎつつ、各製品ごとに明確なポジショニングを確立するためなのです。

こうしてP&Gは多様な商品群を抱えながらも、それぞれが消費者にとって明確な価値を持つブランドとして認識されることを狙っています。だからP&Gの商品群は強いのです。

     

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