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私が慢性の肩痛で、通っているクリニックがあります。このクリニックは「腕がいい」と評判で、遠方からもスポーツ選手などの患者さんが来ます。
このため、当然ながら混んでいます。診断するドクターの先生は一人だけ。他に実際に施術する理学療法士が10人ほど、看護師さんも10人近くいます。
診断はドクターの先生が一人で行っています。
このドクターはもの凄いスピードで患者さんを次々と診断して、的確に症状を判断し、時に注射などの必要な措置もした上で、理学療法士さんの施術に送り出します。
このドクターは経験豊富で診断するスピードも実に速いのですが、それだけではありません。このクリニックは、そこからさらにスピードを倍速化する仕組みを作っています。
それが「診察室を二つ用意すること」です。
患者は診察室に呼ばれると、まず看護師さんが問診して、今の症状をパソコン上の診断アプリに入力していきます。
入力が終わった頃に、隣の診察室で診察を終えたドクターが、診察室の間仕切りを越えて現れます。
そして看護師さんの説明と入力内容を聞きます。そして患者の話を聞き、問診内容を再確認。患部を触診して症状を判断。治療方針を決定します。ここまで15〜20秒。そして方針を決め、患者と看護師さんに伝え、必要なら施術。この間、看護師さんがカルテを記入。
施術を終えたドクターは、カルテをチェック。そして隣の診断室に移動して、既に問診を終えた患者さんを診察します。
この仕組みを見て、私は少々驚きました。
「このドクター、すごい。TOC理論に沿ってボトルネックを最適化している」
TOC理論(制約条件の理論)とは、ロングセラー『ザ・ゴール』の著者エリヤフ・ゴールドラットが提唱した、全体最適の考え方です。
TOC理論のカギは「ボトルネックの見極めと対応」なのです。
「ボトルネック」とは瓶の首のことです。瓶を逆さにしても、瓶の首に妨げられて水が全部一気に流れ出さないように、ボトルネックは全体の流れを滞らせます。瓶に限らずあらゆるプロセスに、全体のプロセスの速度を決めるボトルネックがあります。
このクリニックのボトルネックは、ドクターの診察時間です。言い換えれば、このクリニックで最も高価なリソースは、ドクターの時間なのです。
そこでこのクリニックは、ドクターの時間を最大限に有効活用することを考えています。
クリニックでは、診断は次のように進みます。
①問診→②カルテ記入→③患者を診断→④施術→⑤結果をカルテに記入
通常のクリニックは、これらすべてをドクターが行います。
①問診(ド)→②カルテ記入(ド)→③患者を診断(ド)→④施術(ド)→⑤結果をカルテ記入(ド)
このクリニックでは、このプロセスでドクターしかできないことを特定し、他は看護師が補助する仕組みにしています。
①問診(看)→②カルテ記入(看)→③患者を診断(ド)→④施術(ド)→⑤結果をカルテ記入(看)
こうしてドクターが③と④に特化することで、ドクターの時間を最大限に有効活用し、クリニック全体で対応可能な患者数を増やしているのです。
この病院は、ホームページで「患者さんを長時間お待たせする状況を改善し、緊急対応にもできるだけ応じられるようにして、患者さんにじっくり寄り添いたい、と考えてクリニックを作った」というドクターのメッセージが掲載されています。
組織のパーパスとこの施策は、連動しているわけですね。
あらゆるプロセスにはボトルネックがあります。もしボトルネックが見つかれば、その効率を上げる方法を見つけることで、全体の効率は飛躍的に上がるのです。
(補足…これは医療の素人である私の目線で見ています。実際には医師法などで「カルテ記入はドクターが責任を負う」などの規則がありますし、このドクターも診断中にカルテをチェックしているので、実際に細かく見ると、カルテ記入と最終確認はドクター、看護師は補助、といったルールで、医師法に沿った運用をしているものと思います)
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