
バイオリニストの高嶋ちさ子さんは、いまテレビで「毒舌キャラ」としても独特のポジショニングを確立しています。
その高嶋さんはかつてメディアで、高校時代の文化祭で、文化祭のスタッフ向けにカップヌードルの仕出し屋を行って、大繁盛だった話しをしています。(ネットで検索すると出ていますので、興味ある方は探してみてください)
これはマーケティング的に考察すると、恐るべき戦略です。
具体的に見てみましょう。
①ターゲット顧客が実に明確
文化祭で仕事を抱えるスタッフの生徒向け。文化祭には他校や父兄なども集まりますが、彼らは対象ではありません。
②顧客の課題把握も、実に明確
私も高校・大学と文化祭の運営をして実感していますが、文化祭スタッフは忙しくて昼食を食べることもできません。
③課題に対する解決策も、実に明確
多忙極まりない文化祭スタッフに、その場ですぐに食べられる食事(=カップヌードル)を提供しています。カップヌードルなら、みんな味を知っていますし、高校生ならば好きな人も多いですよね。
④値付けが絶妙
高嶋さんは、コンビニで100円で売っているカップヌードルに、ポットでお湯を入れて600円で売っていたそうです。全然安くありません。むしろ高いですよね。これが1000円なら「高すぎて買えない」になりますが、600円なら「マックのセットを頼んでも、そのくらいかな」となります。絶妙な価格付けですね。
⑤効果的なプロモーションを展開できる
高嶋さんはミス桐朋にも選ばれた方で、学園内でも知名度が抜群に高い方でした。その高嶋さんが、校内でカップヌードルの仕出しを提供することで、話題性も生まれて、学園内の口コミを通じたプロモーション効果も生まれます。ちなみにお店の名前は、音大付属校らしく“麺出るすZONE”(メンデルスゾーン)だそうです。
⑥コストが最小限
仕出し屋だから設備コストゼロ。さらにカップヌードルは保存が効きますし、学園祭が終われば、昼食時に出店仲間と分けて食べられますので、在庫リスクなしです。
⑦付加価値が高い
仕入れ原価100円のカップヌードルに、お湯を入れて提供することで、「プラス500円」という付加価値を付けています。実際には、自宅から学校に行く途中でコンビニに立ち寄りカップヌードルを買い、校内でお湯を沸かして入れれば100円で済みます。でも文化祭スタッフには、そんな暇はありません。顧客ニーズを実に的確に捉えて、最小コストで付加価値を創り出しています。
以上のマーケティング戦略を、STPで整理すると、
・セグメンテーション:文化祭関係者を来場客、先生、同校生徒、運営スタッフに細分化
・ターゲティング:「昼食を食べる暇もない」という運営スタッフ
・ポジショニング:手軽にすぐ食べられる昼食サービス
その戦略を実現するマーケティング施策を、4Pで整理すると、
・製品戦略:カップヌードルをすぐ食べられる状態で提供
・価格戦略:600円(値ごろ感が絶妙)
・チャネル戦略:場所を取らない仕出し屋でコストを最小化
・プロモーション戦略:ミス桐朋の知名度を活かし、口コミ+話題性
ちなみにこの仕出し屋、かなり儲かったそうで、一緒に働いていた仲間全員におそろいのスエットとウィンドブレーカーを買ったそうです。
おそらく当時高校生だった高嶋ちさ子さんは、STPも4Pもご存じなかったことと思います。まさに「天性のマーケター」ですね。
マーケティングの本質は、「適切なターゲットに、商品を価値のある形で提供すること」です。重要な点は、モノである商品そのものではなく、「どのように提供するか」なのです。
そしてSTPと4Pというフレームワークは、天性のマーケターではない私たちでも、このような秀逸なマーケティング戦略とマーケティング施策を立案できる武器でもあるのです。
使わないのは、もったいないですよね。
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