取れそうで取れないクレーンゲームの絶妙なビジネスモデル

クレーンゲームが流行っています。

先日、時々通っているカフェの近くに、クレーンゲームの店があることに気付きました。試しに入ってみました。

お客さんは、高校生や子連れの主婦、20〜30代の若者が中心です。

クレーンゲームの中には、ぬいぐるみとか、人気アニメのキャラクターのリアルなフィギュア(たとえば『呪術廻戦』の五条悟)とかが入っています。

お客さんたちはこうしたフィギュアを狙って、次々とコインと投入しています。

1回でゲットできることはほぼなくて、何回かコインを入れて徐々に景品の位置をずらしてゲットする人がほとんどです。

男子高校生たちは、仲間と盛り上がりながら「あー、惜しい!」「やったぁ」などと歓声をあげて盛り上がっています。

一方で座り込み、夢中になって次々とコインを投入する人もいました。

一通り見て回って、「このクレーンゲーム、ビジネスとしては実によく出来ているなぁ」と実感しました。

景品をゲットできる確率が、100%ではないけど、0%でもない、という設定が実に絶妙です。

ここである実験を紹介しましょう。

スタンフォード大学の神経科学者ロバート・サボルスキーは、こんな実験をしました。

サルに簡単な作業を行わせて、作業を終えるとご褒美の食べ物がもらえる、という実験です。実験開始が近づくとランプが点灯。そして作業を終えると、サルはご褒美を与えます。

ここでサボルスキーは、どの段階でサルの脳内で快楽物質ドーパミンが出るかを測定しました。

「そりゃ、ご褒美を貰える瞬間でしょ」と私たちは思いがちですが、実際には、ドーパミンが一気に上昇したのはライトが点灯した時でした。

「もうすぐご褒美が貰えるという期待」でドーパミンが放出されたのです。そして面白いのは、ここからです。

サボルスキーは、ご褒美を与える確率を調整しました。

すると100%未満にした途端、ドーパミンのレベルが上昇し始めたのです。ご褒美が貰える確率が50%の設定の時に、ドーパミンは最高値を示しました。

つまり「欲しいモノが手に入るかどうかわからない状態」の時に、快楽物質ドーパミンの分泌が最も促される、ということです。

こうした現象がわかると、多くの人たちがクレーンゲームにハマる理由がよくわかります。

まずクレーンゲームは、確実に取れないように設計されています。

「もう少しで、景品が取れるか、取れないか」というギリギリのタイミングで、人はドーパミンが大量に分泌されます。だから中毒性があるのです。

一方で、お客さんが次々と景品を取れると、店は赤字です。
そこで店は調整しています。

実は、クレーンゲームで景品を吊り上げるアーム(腕)は、いつも同じ強さではありません。大ざっぱに言うとこんな感じです。

1回目は少し弱くして「あ、取れなかった」
5回目になると強くして「よし。今なら取れるぞ!」

このようにアームの掴む力が強くなるタイミングは、「確率が来ている」と言われたりするようです。

こうして取りやすくなるように調整することで、「よし! あとちょっとで取れるぞ」と思わせるように徐々に調整しているのです。

たとえば費用1000円で仕入れたフィギュアは、平均で500円のコインを6回、3000円使った頃に取れるように、アームの強さを調整しています。

当然、1回目で取る人もいれば、10回やっても取れない人もいます。しかし平均すれば6回前後に落ち着くように調整することで、フィギュア1個当たり2000円の利益になります。(なおこれは実際の例ではなく、感覚的にわかりやすく、ザックリと表現した例です)

クレーンゲーム、実によく出来ていますね。

マーケティング視点でいえば、クレーンゲームからの学びは…

・消費者の心理をよく理解して設計していること
・ワクワク感という体験価値を生み出していること
・価格設定と収益構造が絶妙なこと

しかし冷静に考えれば、クレーンゲームで景品を狙うよりも、店で商品を購入した方が安い場合が多いはずです。一方でクレーンゲームには、ワクワク感があります。だから人はクレーンゲームをするのです。

言い換えると、クレーンゲームの

・「なかなかやめられない」という中毒性やギャンブル性
・子どもたちが「気がつくと1万円使っていた」という状態になること
・不透明な仕組みの存在(アームの力の調整や景品をゲットできる確率が不明)

これらはダークサイドとも言えそうです。

そこでクレーンゲーム業界は、景品価格は原則800円以内にしたり、業界でガイドラインを作ったりして、色々と対策を立てています。

日本アミューズメント産業協会によれば、クレーンゲームの国内市場規模は3000億円超。2024年にはローソンも一部店舗でクレーンゲームの本格展開を始めて成長しています。

クレーンゲーム業界の健全な発展を見守りたいと思います。


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