「ベテラン社員が変わらない」と悩むマネジャーのための、コルブの「経験学習」

マネジャーの皆様とお話しすると、こんなお悩みをよく聞きます。

「1on1は重要だとわかっているけど、強い個性があるメンバー相手だと難しい」
「ベテラン社員はプライドが強いので、なかなか変わりませんね」
「年配社員に自分のやり方を変えさせるには、どうすればいいですか?」

こういうお悩み、実によくわかります。

上司「こうするといいよ」
部下「了解。そうしましょう」

上司からするとこうなると楽ですが、相手の行動原理や価値観に関わることについては、なかなかこうはなりません。

なぜかというと、人の価値観は「経験の蓄積」でできあがっているからです。

「あんなことがあった」「こんなこともあった」
「あ、それよく知ってる」
「人ってこういうもんだよね」
「真実って、○○だよね」
「あれはダメ」「あれはイイね」
「こんなヤツはダメ」「こういう人は信用できる」

こうした膨大な数の経験が、その人の価値観や行動原理を形成しているのです。

ですから、子どもと大人では「新たな価値観を作るプロセス」は異なります。

子どもの場合 …未開拓で何もない土地に、建物を作るのと同じです。
全く何もないところから、価値観を形成していきます。
20代前半の新入社員が、会社でビジネスのやり方を学ぶのも、未経験状態でビジネスの価値観を形成するので、まったく同様です。

大人の場合 …既に建物がある土地で、建物を建て替えるようなものです。既にある建物をいったん取り壊して、作り替える必要があります。ベテラン社員の変容の場合、「既に知っていること」をいったん手放す必要があります。

たとえてみると、上記の膨大な経験の中で、

「真実って、○○だよね」
「あれはイイね」

これらをいったん、否定する必要があるのです。

「真実って、○○だよね」→実は真実は、△△だった!
「あれはイイね」→実は、あれはダメだった!

こうして自分の価値観を否定されると、当の本人は違和感を感じて、感情が揺れ動きます。

「え? ホントに違うの?」
「そんなわけないと思うんだけどなぁ」
「マジか…。ショック…」

しかしこうした感情も徐々に収まって、次第に腹落ちしていきます。

「なるほど、そうか。こうすればいいのか!」

こうして時に辛い状態になりますが、その先の気づきが、変容の出発点になるのです。

つまりベテラン社員が変容するのは、結構辛いプロセスなのです。

しかし悪いことばかりではありません。こうして変容することで、これまで気付かなかった、全く新たな可能性も見えてくるのです。

このプロセスをまとめたのが、コルブの「経験学習」です。

①具体的な経験
②内省的検討
③抽象的思考
④積極的な行動

このプロセスを何回も回しながら、学び成長して行くのです。

たとえば、これまでの経験で「細かく指示しないと、メンバーは成果を出せない」と固く信じている、あるベテラン社員を想定してみましょう。

①具体的な経験

「部下がやる気がないから、自分が直接指示してきたけど、部下はますますやる気を失ってる気がする。なんだかなぁ。困ったもんだ…」

この状態でこの人は、小さな違和感を感じ始めています。

ここで大事なのは、「本人の気づき」を引き出すきっかけです。この人の上司から見ると、この人との対話や1on1、さらに研修なども、気づきの機会になり得ます。

こうして第2段階になります。

②内省的検討

「もしかして…。自分が細かく指示した結果、部下が考えないようになり、成長を止めていた…? いやいや、まさか。そんなワケないでしょ」

ここで違和感が意識の中で具体的に表面化していきます。

そして気づきを客観化し、分析的に思考を始めます。それまでの価値観が否定されることもあるので、辛い時もあります。

こんな時こそ部下を熟知する上司は、ご本人との最適な対話者になり得ます。この本人の支えとなり、新たな気づきのきっかけを提供できるのです。

③抽象的思考

「なるほどね。リーダーの役割って、自分が動いて成果を出すのではなくて仕組み作りと人を育てることなのか。理解していた積もりだったけど難しいな。まずはやってみないとわからないよね」

そして次に、まずは小さな一歩です。こうして頭で抽象的に理解したことを、具体的な行動に変えるのです。上司も支援します。

④積極的な行動

「今度から、部下に仕事を任せて、失敗したら一緒に原因を考えるようにしてみよう」

こうして具体的な行動から得た経験で、抽象的思考で考えた仮説を検証し、学びをさらに深めていきます。たとえばこんな感じです。

新たな ①具体的な経験

「部下に任せたらできたじゃん! でも最初に狙いを正確に伝えないと、混乱するな。ここは要改善だね」

このように、学びは一度きりではなく、経験を通じた「成長の循環」なおです。

「ベテラン社員が変わらない」とお悩みのマネジャーは、こうした仕組みを意識しながら1on1などに臨んでみると、これまで見えていたことが変わってくると思います。

 


■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。