シェア独占の圧倒的強者が、負ける時

こんな話を聞いたことはありませんか?

「シェア74%を取れば、勝負あり」

これは、必ずしも正しくありません。

「シェア74%を取れば…」のオリジナルは、「ランチェスター戦略」で紹介されている「市場占拠率の目標数値モデル」です。*1

上限目標値 74% 絶対的な独走状態
安定目標値 42% 安定的な強者の位置。独走状態に入る
下限目標値 26% 弱者と強者の境目。トップになることもあるが不安定

ということで、「74%を確保すれば競合はほぼ逆転不可能」といわれているわけです。

実際、1971年に国内インスタントコーヒー市場で75.8%のシェアを取ったネスカフェ(正確にはネスカフェとネスカフェゴールド)は、今もインスタントコーヒーでトップシェアです。

検索エンジンでも、グーグルは90%超のシェアを維持してきました。

一方で圧倒的シェアを確保したのに盤石でない事例も、数多くあります。

コダックは写真フィルム市場で、1970年代の米国シェアは90%でしたが、連邦破産法Chapter 11を申請しました。

IBMは、コンピューターのメインフレームフレーム市場で、1960〜70年代のシェアは80%で、高収益企業でした。今でもメインフレーム市場は残っていて、IBMは依然としてトップシェアですが、市場は極めて縮小して、今やIBMの主力事業ではありません。

キリンビールは、1970年代の国内ビール市場シェアは60%超でしたが、今はアサヒとトップシェア争いをしています。

実は、圧倒的シェアを維持するには「土俵が変わらないこと」という条件があります。

これは、マイケル・ポーターが競争戦略で提唱した「5つの力」で考えるとわかります。*2

「5つの力」は、市場構造を、市場全体を眺める鳥の目で見る方法で、①新規参入の脅威、②代替品の脅威、③買い手の交渉力、④供給者の交渉力、⑤業界内の競争、といった5つの力関係を考えていきます。

トップシェア企業の立ち位置で「5つの力」を考えると、次のようになります。

①新規参入の脅威 …規制や技術などで市場への参入障壁が下がると、強い競合が増える
②代替品の脅威 …他業界から新たなライバルが進出してくると、市場構造は崩れる
③買い手の交渉力 …顧客の選択基準が変わると、首位でもヤバい
④売り手の交渉力 …仕入れの構造が変わると、首位でもヤバい
⑤業界内の競争 …競争ルールが変わらなければ、首位は固い

私たちは、対ライバルの視点だけでビジネスを考えがちですが、こうして「5つの力」で考えると「市場シェアというものは実にあやふやなものだ」とわかります。

「当社は写真フィルム市場でシェア90%だから、安泰」
「当社はメインフレームでシェア80%だから、安泰」

と思っていても、

・消費者がデジカメを選ぶようになったり
・企業がメインフレームではなく、PCサーバーやクラウドを考え始めた途端、

顧客から見た本当のシェアは、一気に下がるのです。

ちなみにキリンのトップシェアを崩したのは、「ビールはどこも同じ味」という業界の常識に対して、「顧客はキレのある辛口が飲みたい」と見抜いて、常識を破壊したアサヒ・スーパードライでした。

業界構造が破壊されると、盤石のトップシェアを確保していても、いとも容易に陥落します。

ここから学べる事は、実はシンプルです。

【攻める側ならば】

自分たちの市場に圧倒的トップシェアのライバルがいても、その市場で新たなイノベーションが起こっていたり、消費者が商品を選ぶ基準が大きく変わっていれば、ニッチな領域から入って逆転できる可能性があります。

ポイントは、絶対に正面からライバルにぶつからないこと。まず顧客の不満や変化を突破口にして、そこから市場をこじ開けるのです。

【守る側ならば】

市場でトップシェアを維持している企業では、往々にして視界から顧客が消えて業界内のことしか考えない、という落とし穴があります。

これが、没落へのカウントダウンです。

まず、その市場を脅かす新規参入業者や代替技術のイノベーション、さらに顧客の行動の新たな変化を常にウォッチして、必要なら即対応することです。

検索エンジンで圧倒的シェアを持つグーグルが、将来検索エンジンをAIが代替する可能性を考えて、AIに莫大な投資をしているのは、まさにこれです。

エアコン市場で首位を走るダイキンで会長兼CEOを務める十河政則氏は、かつてインタビューでこう述べています。

『グーグルやアップルなどのIT企業が、家庭内にあるモノ(デバイス)をネットにつなげて住宅全体を制御・コントロールし始めるようになったら、「空調」がデバイスの1つになってしまう展開だってあり得る』*3

そしてダイキンは、ビルや地域単位のデータ収集/分析して空調サービスを提供する事業を展開しています。これぞあるべき姿です。

自分たちを脅かすライバルは、自分たちの業界の外からやって来るのです。

攻める立場、守る立場、いずれの場合でも、リスクを取って業界の壁を破壊すれば、自社も市場も成長します。そっちの方が、仕事をしていて楽しいと思います。

ぜひ今年、リスクを取って、業界の壁を壊すような挑戦をしたいですね。

参考文献
*1 「ランチェスター思考 競争戦略の基礎」(福田秀人著)
*2 「競争戦略」(マイケル・ポーター著)
*3  「ダイキンの仮想敵がグーグルやアップルになる理由 十河政則・ダイキン工業社長兼CEOに聞く」(DIAMOND online 2016.10.3)

  
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