59,400円の時計から見える、バルミューダの「脱・生活家電」戦略

https://www.balmuda.com/jp/the-clock/ より

2026年3月18日、バルミューダは新製品「The Clock」を発表しました。

価格は59,400円。針も保護カバーもありません。光で時刻を表現します。アルミニウムのブロックから削り出した美しいボディ。バルミューダらしく、常識を超えたデザインです。

ネット上では、ポジティブな意見とネガティブな意見が交錯しています。

「可愛すぎる。必要じゃないけど欲しいかも」
「時計としてのオブジェ価値は高そう」
「美しい。常に携帯したい」
「毎日使えることを考えると、安いかもね」
「駆動時間24時間。毎日充電するの?」
「ン万円出して買いたいとは思わない」
「誰が買うの?」
「バルミューダ、迷走してない?」

私は、バルミューダらしく実にこだわった時計だなと思いましたし、実物をぜひ触ってみたいとも感じました。

興味を持ったので記事を探してみると、同社・寺尾社長にインタビューしたこんな記事を見かけました。

「【独占インタビュー】寺尾玄の苦悩から生まれた魂の「The Clock」。バルミューダは“家電メーカーからの脱却”を計れるか?」 (VAGUE 2026.3.18)

この記事を読むと、The Clockを開発した背景が見えてきます。

バルミューダは生活家電で急成長し上場も果たしました。

しかし2021年のバルミューダ・フォンの失敗、同時に起こった急激な円安で海外生産した製品の原価が1.5〜1.6倍に上がったこと、さらに米国市場への参入には、トランプ政権の追加関税が直撃。

その後もジョニー・アイブとの協業による55万円のランタン発表など、様々な挑戦をしてきました。

こうして国内の生活家電中心のビジネスからグローバルへの展開を始めて、新たな発見がありました。

「生活家電はローカライズの塊。グローバルでの商売は難しい」

日本と韓国でトースターがヒットしても、食文化が違う中国では同じようにいきません。加湿器も東南アジアでは不要。日本市場だけでビジネスをしていると、こんなことはなかなか見えてきませんね。

そこで考えたのが…

「生活家電メーカーからの脱皮」

生活家電では市場規模がどうしても小さくなります。

しかし「全人類が使う道具」であれば、より大きな市場を取ることができます。

「まず分母があって、その中にバルミューダらしい体験価値が入っているものを作らないといけない」

そうしてたどり着いたのが、文化や生活習慣に左右されない時計というカテゴリーだったのです。時計であれば文化の差は受けにくく、世界中で使われます。

そしてこの時計でバルミューダらしい体験価値を徹底的に反映したのが、この新製品The Clockなのです。

インタビューで寺尾さんは「実はこれ、最初は自分が眠るために作ったんですよ」と語っています。

経営者という仕事は大変で、夜もなかなか寝付けません。ましてバルミューダは実に難しい局面にあります。

寺尾さんの話を聞いて、私はThe Clockを開発した背景が見えてきました。

2021年のバルミューダ・フォンの挑戦では、バルミューダは「体験価値を提供する」という強みを十分に発揮できませんでした。

スマホ事業の失敗について、寺尾さんは2023年にメディアのインタビューでこう語っています。

「あえて言葉を絞り出すと、…フィジカルで感じられる体験に価値をもたらすところに、自分たちの強みはある。(中略)…当面は調理や空調の分野を軸にした生活家電を開発していき、この強みをさらに磨こうという意識を持っている」

その後、さらに様々な挑戦をして、「自社が持つフィジカルな体験価値という強みを、生活家電だけでなく全人類が使う道具で提供する」という結論に辿り着き、発表したのがThe Clockなのでしょう。

ちなみにバルミューダがターゲットとする顧客は、同社が「ハイブロー層」と呼ぶ、所得が中間層から富裕層にまたがる知識層です。

ネット上でポジティブな反応をしたのがまさに同社が狙う「ハイブロー層」、微妙な反応をしたのがそれ以外の層、といえるかもしれません。

しかしこのThe Clockも、成功するとは限りません。

バルミューダは創業した頃にヒットした扇風機もトースターも、当初は「無謀だ」といわれていました。そんな中でチャレンジし続け、成長してきた会社です。

傍から見ていると「迷走している」と思う人もいるかもしれませんが…

「仮説を立てる」→「実際にやってみる」→「結果から深く学ぶ」

という仮説検証サイクルを確実に回し続けることが、バルミューダの強みでもあります。

バルミューダがこの次にどんな新製品を出すのか、楽しみに見ていきたいと思います。


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