『モチベーション3.0』(ダニエル・ピンク著) ご褒美をあげても、アイデアがなかなか生まれない理由


『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』(ダニエル・ピンク著)を読了しました。

本書は、現代の企業では当たり前になってしまった外発的動機付けと、知識社会で求められる内発的動機付けについて考察した本です。

本書では、モチベーションを次の3つのバージョンに分け、主に2.0と3.0について考察しています。

モチベーション1.0…生存(サバイバル)が目的
モチベーション2.0…アメとムチ=信賞必罰に基づく与えられた動機づけ。ルーチンワーク中心の時代には有効
モチベーション3.0…自分の内面から湧き出る「やる気!」に基づく。

モチベーション2.0(アメとムチ)は、200年前の産業革命の時代に生まれ、さらに1900年代にテイラーによって科学的管理法が編み出され、現代社会に定着しています。

要は「これを達成したら、ご褒美をあげる」という方法です。単純労働のケースではこれは極めて有効でした。

 

一方で、自分が心から夢中になっていることに取り組んでいる場合、「寝ても覚めてもそのことばかり考えてしまう」「やめろと言われても、絶対やる!」という経験がありませんでしょうか?これがモチベーション3.0です。

創造的な思考が求められる知的作業では、心から「やりたい!」と思うモチベーション3.0の状態になると、大きな生産性を生みだします。

本書では、「創造的なアイデアを生みだしたら、お金をあげます」と言われると、逆に生産性が落ちてしまう例をいくつか挙げた上で、次のように紹介しています。

—(以下、p.77より引用)—

外的な報酬は、アルゴリズム的な仕事ーつまり論理的帰結を導くために、既存の常套手段に頼る仕事ーには効果があると気づいた。

だが、右脳的な仕事−柔軟な問題解決や創意工夫、概念的な理解が要求される仕事−に対しては、条件付き報酬はむしろマイナスの影響を与えるおそれがあることも明らかにした。

—(以上、引用)—-

つまりモチベーション2.0(アメとムチ)は、前者(アルゴリズム的な仕事)の場合は有効であり、後者(右脳的な仕事)に適用すると逆に生産性が落ちてしまうのです。

本書ではアメとムチの7つの欠陥についても紹介しています。

—(以下、p.93より引用)—

1.内発的動機づけを失わせる
2.かえって成果が上がらなくなる
3.創造性を蝕む
4.好ましい言動への意欲を失わせる
5.ごまかしや近道、倫理に反する行為を助長する
6.依存性がある
7.短絡思考を助長する

—(以上、引用)—

一方で日本を含む先進国では、多くのビジネスパーソンの仕事では、創造性や複雑な問題解決能力が求められます。

企業はどのように考えればよいのでしょうか?

本書では、社員が自律的にアイデアを生みだして仕事ができるような「モチベーション3.0」の環境を作って企業を成長させた、オーストラリアにあるソフトウェア会社の経営者の言葉を紹介しています。

—(以下、p.136より引用)—

「十分な給与を払わなければ、社員は会社から離れていきます。しかし、それにもまして、金銭は人に意欲を与える要因ではないのです。お金よりも重要なのは、このようにクリエイティブな人をひきつける仕組みなのです」

—(以上、引用)—

 

「成果主義って言うけど、なんとなく違うような気がする」と私たち日本人が違和感を感じていたことが、各種研究を引用しながら明確かつ論理的に体系立てて説明されている点が、本書の価値であると思います。

今後、企業の人事制度やビジネス形態は、モチベーション3.0の世界にどんどんシフトしていきます。

長期的に見ると、そうしない限り企業は優秀な人材を確保して業績を上げられないからです。

さらに新規事業開発や経営変革、企業戦略等を考える上で、会社として社員の仕事をどのようにサポートするかは、避けて通れない課題です。

その観点でも、本書は今後の企業のあり方を考える上で、参考になると思います。

 

ちなみに翻訳は大前研一さんで、とても読みやすくなっています。