昨日開催した第32回朝カフェ次世代研究会は、インフォテリア社長/CEOの平野洋一郎さんによるご講演「 No.1獲得の秘訣と罠」でした。
実際にベンチャーの経営に邁進してこられた平野さんならではの圧倒的な説得力を持つご講演でした。
とくに「ベンチャーがNo.1になれない五つの罠」が圧巻。
■一つ目の罠は、「競合なし」ということ。
よく「競合はありません。オンリーワンです」とおっしゃる方がおられます。しかし実際には価値が高ければ競合が出てきます。あらゆるものは顧客・ユーザーが消費するお金や時間の取り合いです。ですので戦いを放棄しているので「競合がない」という状態になっている場合がある、と平野さんはおっしゃっていました。
確かに競合が激しいIT業界では、魅力的なセグメントにはあっという間に競合が参入します。一方で業務用ミラーの開発・販売をしているコミーのように、まさに戦いから逃れた結果、成熟した極めてニッチな市場で80%のシェアを獲得しているケースもあります。
成長市場では競合があるのが普通ですので、特にIT業界では平野さんがおっしゃる通りと思いました。
■二つ目は、「顧客の声」。
「 お客様は神様」と考えたり、顧客ニーズ・市場調査データを最重要視したり、「具体的案件はあるのか?」と聞くケースです。「顧客の声」に応えようとするのですね。
しかし何が問題なのでしょうか?
実は顧客が求めているのは、今欲しいものです。ですので顧客の声に基づいて今から開発しては遅すぎるのです。さらにニーズに応えるために多くの意見を取り入れた結果、妥協の産物になります。
スティーブ・ジョブスも「人は形にして見せてもらうまで何が欲しいか分からない」と言っています。
インフォテリアでは、開発の際に、最初のバージョンでは顧客の声を聞かずに自分たちの考えや製品コンセプトをキッチリ固めるそうです。その上で、2nd version以降は徹底的に顧客の声を聞くとのこと。
これは深く賛同しますね。
■三つ目の罠は、「会議」。
できるだけ多くの意見を取り入れ、全員賛成を目指す。詰めが甘いと次回持ち越し、というケースです。
これは時間がかかりますし、妥協の産物になります。さらにこのアプローチはベンチャーではなく大企業の会議室でも決められます。(大企業とベンチャーの行動原則は違うのですね)
インフォテリアでは「8割OKならGO!」を予め徹底しているそうです。 残り2割の説得するのに8割の時間がかかるからです。残り2割を説得するのを止めれば、5回できることになります。逆に全員賛成は疑ってかかるようにしています。
コンセンサスの罠ですね。
■四つ目は、「受託開発」 。
これは技術力の高さが裏目に出ます。「何でも出来ます」というアプローチが可能になり、売上と実績を求めて大型案件狙いになります。
しかし何が悪いのか?それは会社の方向性が失われるからです。
本来、プロダクト開発と受託開発は相容れません。
受託開発は「案件規模を大きく」することを狙います。利益は「売上ーコスト」で常に一定確保。しかし大きくは伸びません。
一方のプロダクト開発は「数多く売る」ことを狙います。売上が開発コストを回収すれば、その後の売上は基本的に利益です。スケールメリットを目指します。
「本来、ベンチャーが投資家と組む意味は『目の前のお金に窮しない』ためではないのか?」というのが平野さんの主張です。
スケーラビリティを捨てないこと。プロダクト開発では、人数を増やさないと売上が伸びないビジネスになってはいけないのです。
実際、伸びているグローバル・ソフトウェア・ベンダーは受託ゼロです。受託をしていたら国外に出て行けません。「強みにフォーカス、目の前のお金のために時間を捨てない」ということです。
■五つ目の罠は、「融資」。
十数年前、ハイパーネットは世界初のインターネットによる広告モデルを開発しましたが、「融資マネー」に頼っていたため、経営悪化した際に8億円の融資返済を求められ倒産。経営者の板倉さんは自己破産しました。(「社長失格」という本に詳しく書かれています)
一方、典型的なシリコンバレーのベンチャーは「投資マネー」に頼っています。資金に枯渇してもリスクマネーなので返済義務はなく、自己破産することもなく、新たに会社を作ってチャレンジできます。
もちろん投資は投資で、株式所得があったり、成果分配もあったりして、考慮点も多いのですが、両者の違いを理解することは重要です。
どのお話しも、深く賛同致しました。ご自身で、経営の現場で体験しているだけに、大きな説得力があります。
平野さん、ありがとうございました!
参加者がTwitterで講演の様子を中継して下さった様子をTogetterでまとめましたので、ご参照下さい。
次回7/18(水)の朝カフェは、e-Janネットワークス 営業部長の三井智博様さんより、「 IT業界における販社ビジネスモデル考~安くて完成度の高い製品は売れない?~」と題してお話しをいただく予定です。
IT業界のご経験が長い三井さんならではのお話しとても楽しみです。