80年前のソリューション・ビジネス


まだコンピュータというものが姿かたちもなく、パンチカードでデータを記録していた、80年前の頃の話です。

先日ご紹介したケビン・メイニー著の「貫徹の志 トーマス・ワトソン・シニア―IBMを発明した男」を読んでいますが、この時代から、お客様が意識していない問題をワトソンがいかに着目し、周囲の反対をモノともせずに執念深く取り組み、克服していったかが描かれています。

これはまさに先進ソリューションの取り組みの一面をあらわしています。

以下、抜粋しながら紹介します。

統計機械は類似製品がなく、産業界に取り入れられてから日が浅かったため、1920年代には新しいアイディアを試みる余地が多く残されていた。このような理由から、ワトソンは、いち早く「データ処理」という呼称を使い、この分野への関心を深めていった。

この状況は、現在のIT業界と酷似しています。特にインターネットが本格的に普及を始めた10年前からは、消費者まで含んで様々なアイディアを試みる可能性が広がっています。

ワトソンは、統計機械を銀行に納めたいと考えていた。銀行では窓口係が取引内容を紙に手書きしており、事務担当者はそれを判読して記録しなければならなかった。それなら顧客接点での処理をオートメーション化すればよいではないか。ワトソンは各窓口に機械を設置して、取引内容をパンチカードに打ち込めるような仕組みを提案した。

このアイディアでもワトソンは市場や技術の面で時代を先取りしていた。ある銀行の頭取からは、窓口担当者が取引を入力するのは時間がかかりすぎると言われ、IBM社内の技術者は、納得のいくコストで銀行向けシステムを開発できる自信がないようだった。それでもワトソンはひるまなかった。

お客様自身が認識していない業務上の課題に取り組んでいたということですが、この姿勢は現在のIT業界も大いに見習うべきと思います。

お客様がビジネスの出発点であることは今も80年前も変わっていませんが、そのお客様のビジネス上の課題を分析し、我々であればこのように解決できる、という視点と、その提案をお客様がご理解いただけるようにお伝えする重要さは、現在でも全く変わっていません。

ともすれば、我々は解決策をお客様に求めますが、これは必ずしも正しくはないように思います。我々は、お客様にビジネス上の問題点を求め、その解決策は我々が考えるべきなのではないでしょうか?

…..「だれ一人として賛成してくれないが、それでも私は自分が正しいと考えている。その気になりさえすれば、すぐにでも銀行向けの事業に参入できるはずだ。ぜひそうしなくてはならない」と語っている。IBMが銀行向けシステムを完成させたのは、それから10年近い歳月が経過した後だった。

この執念深さこそ、まさにワトソンの真骨頂ですね。

最先端のソリューション・ビジネスのあるべき姿の原型を、垣間見たような気がします。

ちなみに、銀行向けシステムは1934年に商用化、しかし主要銀行は導入への動きが鈍くあまり普及しなかったそうです。

当初は懐疑的なお客様にもひるまずに開発を続けたものの、市場で本格普及するためのカズムを超える仕組みが作れなかった、という反面教師的な材料も、同時に提供してくれている題材なのかもしれませんね。