6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ (2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円


昨日のブログの続きです。

昨晩2015/4/7の「ガイアの夜明け」でも、米国進出の取り組みが紹介されていましたが、エアウィーヴはメディアでの情報がまだまだ限られています。そこでメディア記事をいくつか引用しながら、考えてみたいと思います。

 

「エアウィーヴ・高岡会長 眠れる会社を見事に覚醒の快“寝”撃」(zakzak 2015年1月27日)では、高岡会長がエアウィーヴの前身となる会社を引き継いだ頃の話をなさっています。

—(以下、引用)—

 「私はおやじの跡を継いで配電機器の会社を経営していますが、伯父から『自分の創業した合成樹脂の射出成型機メーカーを引き受けてくれ』と頼まれた。これがエアウィーヴの前身です。機器メーカーとしての寿命は尽きていたが、造る樹脂素材には見るべきものがあり、ベッドのクッション材などに使えるのではないかと考えたのです。で、BtoB(法人相手)で寝具メーカーなどに売り込もうとしましたが、全然売れなかった」

 「この素材は高反発のクッション材で、これを独自ブランドでBtoC(個人相手)で売ってみようと考えた。当時寝具では既存の寝具に重ねるだけのマットレスパッド分野だけが急成長していましたが、低反発のもので体に負担がかかる。だから高反発のものを作ると絶対売れると確信した。しかもマットレスパッドはベッドのように10年に一度の買い替え需要ではなく買い足し商品。市場としても参入しやすい。そこで3年余りで開発し、07年に『エアウィーヴ』ブランドで売り始めたのです」

—(以上、引用)—

 

まさに「自社ならではの強みを見極め」「ターゲットの顧客」「その課題」「解決策」を徹底的に考え抜き、さらに販売チャネルの特性までも考慮して、万全の体制で臨んだわけですね。

 

なお、ここからはエアウィーヴの商品特性を理解することが必要なのでご紹介しますと、エアウィーヴの商品としての強みは、次の4点です。

■体重を押し返す力が強いため、身動き・睡眠時の寝返りが楽

AW-高反発

■優れた体圧分散で、体に負担がかからない

AW-体圧分散

■通気性抜群で、夏は蒸れにくく、冬は空気断熱で暖かい

AW-空気

■マットレスパッドの中のエアウィーヴ素材まで洗えて清潔である

AW-水洗い

(文章と写真は、エアウィーヴのHPから引用)

 

では、エアウィーヴ発売初年度の結果は、どうだったのでしょうか?

—(以下、引用)—

「散々でした。女性を意識して雑誌広告中心に4000万円を投じましたが、1年で売れたのはわずか1000万円。………

—(以上、引用)—

実は、当初の仮説は間違っており、大失敗をしたのです。

「うわ!身に覚えがある!」という方も多いのではないでしょうか?

かく言う私も「まったく同じ経験、無数にしてきたなぁ」と思いました。

 

別の記事「地域未来構想 愛知県 一流に愛されるブランド戦略で活路」(事業構想 2014年2月号)では、この初年度の挑戦の様子が、もう少し詳しく書かれています。

—(以下、引用)—-

同社の製品は樹脂製の釣り糸や魚網の製造機だったが、糸を絡めながら固めてクッション材を作る技術も持っていた。そこで高岡社長はこの技術を改良し、マットレスパッドを開発することを決意。1年間の試行錯誤を経て、「エアウィーヴ」を開発した。

200枚の試作品を知り合いに配布、使い心地を聞いて回ったところ大好評で、特にスポーツの経験者ほど製品の良さを実感していた。

製品に自信を持った高岡社長は2007年、販売用のウェブサイトを立ち上げてコールセンターを整備し、販売に乗り出した。しかし消費者の反応はさっぱりで、初年度に売れたのは200枚足らずだった。

「優れた製品であれば売れる、という考えは全く通じないことを、痛感させられました」

—(以上、引用)—

知り合いに試作品を200枚配布し反応はとても好評。

多くの人は、「コレで行ける!」と思うのではないでしょうか?

 

しかし初年度の販売はたった200枚。実際に寝具を買う消費者は、買わなかったということですね。

両記事には書かれていませんが、実は寝具を買う消費者の行動は、他商品と比べてやや特殊だったのです。(明日の本ブログで紹介します。皆様もちょっと考えてみて下さい)

 

戦略を立てることは大切です。

しかし逆説的になりますが、戦略が当初の目論見どおりにコトが進むことは、滅多にないのです。

では「戦略は不要なのか」というと、そんなことはありません。

戦略を立てることは大切ですが、当初の戦略はあくまで「仮説」です。「仮説」なので、外れることも多いのです。だからこのように「当初の戦略はまったく間違っていた」という話を聞くと、多くの人が「うわ、身に覚えがある」となるのですね。

 

では、どうするか?

顧客のリアルな反応から学び、戦略を進化させていくことが必要なのです。

月並みな言い方で言うと「失敗は成功の母」ということになりますが、これはまさに真実なのです。

エアウィーヴの場合、「4000万円投資して1000万円しか売れなかった」のは、「4000万円の失敗をした」のではなく、「4000万円かけて、自社しか得られない学びを得た」と前向きに捉えたということなのでしょう。

そして事前に試作品で「使い心地は大好評。特にスポーツ関係者ほど製品の良さを実感していた」という学びも得ています。製品自体は大きな価値を持っていることをしっかり検証していたのは、その後の展開でとても重要でした。

 

仮説を検証して、戦略を進化させる必要性に気がついた高岡社長は、新たな挑戦を始めます。さらに事業構想 2014年2月号の記事から引用します。

–(以下、引用)—-

どんなに商品が優れていても、それが消費者に伝わらなければ買ってもらえない。そう考えた高岡社長は「エアウィーヴ」の知名度を高めることにした。その際、高岡社長が重視したのが商品の”ブランド”だった。

「どんなに優れた技術でも、数年間で競合する技術が生まれます。技術力だけでライバルに勝ち続けるのは難しい。であれば、早い段階でトップブランドの地位を確立して市場に浸透することが重要です」

—(以上、引用)—

この時点でエアウィーヴは、技術上は他社の寝具とは明確に差別化できていたものの、「技術だけでは差別化は不十分」と考えていたのです。

仮説検証から学びを得て、新たな対応策としてブランディングを考え始めた、ということです。

—(以下、引用)—-

実際に「エアウィーヴ」を使用して寝心地の良さを実感している人や導入実績をPRする方向に転換、一番初めのターゲットにオリンピック選手を選んだ。

「オリンピック選手は4年に1度の大会に照準を合わせて体調を整えます。そうした選手に『1億円あげるから大会の前日に当社の製品を使ってくれ』と言っても断られるでしょう。逆に選手から選ばれ続けるような製品を作ることにより、大きなブランドになると考えたわけです」

—(以上、引用)—

この後、水泳選手など数多くのオリンピックアスリートが自ら使い始め、さらにサッカーワールドカップの選手などに拡がり、浅田真央選手がブランドアンバサダーに就任、さらに超一流ホテルや有名老舗旅館でも採用されるようになります。

一方で、海外の睡眠研究所と睡眠時の環境が運動のパフォーマンスに及ぼす影響についての研究にも着手し始めます。

 

このようにして、エアウィーヴの快進撃が始まります。

エアウィーヴの物語は、成熟市場の中で、新事業立ち上げに挑戦しようとしている数多くの日本企業にとって、とても参考になる学びが詰まっています。

 

一方で私は、こう思いました。

「当初の段階から本格的な立ち上げの段階にかけて、エアウィーヴがどのような試行錯誤をしてきたのか、もう少し突っ込んだ具体的な話を知りたい」

実際には、新規事業は試行錯誤の連続です。言い換えれば、失敗からの学びの連続なのです。

一方でネットメディアの記事は、読者がわかりやすく理解できることを最優先に書かれています。このため、詳細な情報は割愛されることもあります。詳しく書くと、ともすると冗長になり、多くの読者が飽きて途中から読まなくなるからです。

そこでエアウィーヴのように新奇性がある話題では、ネットメディアの記事では、そのビジネスの凄さに主な焦点が当たることも多いのです。

 

とは言っても、高岡会長は2つの会社を経営している極めてご多忙な方。私が簡単にインタビューできる方ではありません。

色々と調べたところ、生々しいお話しをしている情報を見つけることができました。

 

そこで次回は、もう少し突っ込んで、エアウィーヴが事業立ち上げ段階でどのような試行錯誤をしてきたのかをご紹介したいと思います。

 

【ブログ連載】6年で売上100倍→120億円!驚異のメーカー・エアウィーヴ

(1) エアウィーヴの凄さは何か?

(2) 200枚の試作品は大好評。そして初年度4000万円を投入。しかし売れたのは1000万円