サラリーマンが独立して陥りがちなのが、仕事を全部一人でかかえて疲弊すること。
近所に店長一人で切り盛りするカフェがあります。ランチが美味しいのでよくテイクアウトをしていました。ある日、テイクアウトしようと行ってみたら、なんと「来月で閉店」という張り紙。妻がお気に入りの店なので閉店は困ります。ということで店長と話してみました。
「コーヒーを入れたり軽食を作るのが好きで3年前にこの店を始めたんですが、もう限界なんです…」
店長はうなだれていました。
「今朝も早くから起きて仕込み、店を開けてお客さんに対応して閉店後は売上精算、明日の仕込みの準備をしたらもう夜10時。3年間頑張りましたが、店は休めないし自分の時間も全く取れません。お客さんに喜んでもらって、独立することで自由も手に入ると思ったんですが…。今は店を営業するのが苦痛なんです…」
起業して同じ状況に陥っている人、とても多いですよね。
こんな店長のための本があります。
「はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術」 (マイケル・E・ガーバー著)
初版は1986年。世界20ヶ国以上で翻訳され、累計700万部のベストセラーです。
本書のメッセージは明快です。
「自分が不在でも、成長するビジネスを目指せ」
これは店長に限らず、すべての経営者やビジネスパーソンに必要な考え方でもあります。本書は独立した経営者が陥る罠を避ける考え方を示した一冊です。
頑張っている店長が報われないのは、根本的な勘違いをしていることが原因です。
「美味しいランチが作れれば、店は成功する」
専門的能力だけでは経営は成功しません。
美味しい食事を作ることと、カフェを経営することは、全く別です。経営を始めた途端に帳簿付け、従業員の雇用、集客など、人に雇われている時は見えなかった未経験の仕事が次々と降ってきます。経営に必要な能力のうち専門的能力はごく一部です。
著者のガーバーは「スモールビジネスの経営者の中では、起業家、マネジャー、職人という3つの人格の争いが起こっている」と言います。
この3つの人格は、お互いに対立しています。職人は名人芸を発揮したがりますが、マネジャーは標準化したがります。
スモールビジネスの経営者で圧倒的に多いのは職人型です。まさに店長のように一人で全部かかえてしまう人です。
この職人型の人がスモールビジネスの経営者をやると、必ず行き詰まります。一人で全部やろうとするので、仕事量が増えると休みも取らずに1日18時間働いても終わらないのです。
そこで、自分は不在でも成長するビジネスを目指すべきなのです。
これは経営者を目指す現場の会社員も同じです。「自分がいないとビジネスが回らない」と考えるのが、職人思考。「自分がいなくてもちゃんとビジネスが回る仕組みを作ろう」と考えるのが、経営者思考なのです。
もちろん職人思考を続けるのも、その人の選択肢です。その方向で素晴らしい仕事をしている人も多くおられます。
一方で、職人思考でマネジャーをやっていると、いずれ必ず店長のように限界が来ます。経営者を目指すならば、自分が不在でも成長するビジネスを目指すべきなのです。
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