先日、獺祭で有名な桜酒造の桜井博志会長が書かれた著書「獺祭の口ぐせ」を読み感銘を受けました。
桜井会長はお父様が亡くなられた1984年、旭酒造の社長を継ぎました。この時、売上9700万円。しかし2016年の売上は108億円。なんと100倍以上の成長です。日本酒業界は1973年をピークに売上規模が1/3に縮小していることを考えると、これは凄いことです。
あえて一言で言えば、これは「お客様が幸せになる酒造り」「もっと美味しいお酒をお客さんにお届けしたい」を出発点に、あらゆる業界の常識を疑ったこと。同社のあらゆる活動は、この出発点に繋がっています。
旭酒造が行っていることは、業界の常識を大きく外していることがとても多いのです。
たとえば日本酒造りは、酒造りの最高製造責任者である杜氏(とうじ)が中心になって行うのが常識です。しかし旭酒造には杜氏がいません。
桜井会長が社長に就任した時、酒造りに色々と口を出すほうでした。高品質な酒造りを求めたからです。しかし旭酒造がある事業で経営危機に陥った時、杜氏は会社に見切りを付けて辞めてしまいました。そこで桜井会長は「自分たちで酒を造ろう」と考えました。
杜氏は60〜70代が多いのですが、この時に同社で酒造りに挑戦したのは、桜井会長以外には4人。全く酒造りに経験がない若手社員ばかり。そこで精米、洗米、蒸米、麹作り、仕込み、上槽、瓶詰めといった酒造りの各プロセスの様々な情報をデータ化。酒造りを徹底的に「見える化」しました。そうして作った日本酒は吟醸酒らしい香りが出ました。「今にして振り返れば、杜氏に逃げられてよかった」と桜井会長はおっしゃいます。
また従来の日本酒造りの常識は、冬場に行われるものでした。しかし獺祭を仕込む旭酒造では、四季醸造。発酵室は365日24時間、5度に保って、春夏秋冬どの季節も同じ環境で酒造りをしています。「勘と経験」に頼らない酒造りのおかげで、純米大吟醸を安定的に通年で造ることができるようになりました。加えて需要変動にも柔軟に対応できるようになりました。
こうして獺祭は徐々に人気になってきましたが、品薄になることが増え、取引がない店で獺祭が定価の3−4倍の価格で売られるようになりました。「獺祭を飲みたい」というお客さんに商品がスムーズに届かなくなってしまったのです。
問屋が獺祭を積極的に売らなくなったためでした。一つの理由は、問屋は一つのブランドが突出して売れると、他の酒蔵から文句を言われるために、都合が悪いこと。そこで旭酒造は問屋を通さずに、直接小売店とお付き合いするようにしました。すると小売店は取引を維持してくれただけでなく、逆に多くの注文がはいるようになり、販売が増え、品切れの問題は徐々に解消に向かいました。
一升2500円という値付けも、お客様視点で決めました。居酒屋で2000円でお酒を飲むには、お酒はとっくり2本で1000円に抑える必要があります。一本(0.8号)で価格500円にするには、0.8合の原価を200円にする必要があります。だからまず一升2500円という価格を先に決めました。
このような桜井さんの様々な戦略は、
「お客様が幸せになる酒造り」
「もっと美味しいお酒をお客さんにお届けしたい」
これが出発点なのです。
市場規模が1/3に縮小する中、徹底的な顧客目線で常識を根本的に疑って、100倍以上に成長した旭酒造を見ていて、感じることがあります。
伝統に固執し、低迷する業界は、逆に大きなチャンスが眠っている。
そのような業界では、多くの場合、顧客目線を失っています。 その古い常識を見直して、新しいことをやれば、大きく成長できるのです。
これは、まさに今の日本で求められていることだと思います。
10月23日(土)の永井経営塾のゲストライブでは、その旭酒造の桜井博志をお招きして、1時間お話しを伺う予定です。永井経営塾の会員の方は、ぜひご参加ください。桜井会長へのご質問も大歓迎です。
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