知人(女性)が美容室で体験した話です。美容室で髪をカットしてもらっている最中に、美容師さんからこう聞かれました。
「ご主人、最近いらっしゃらないですね」
かつて知人の夫は、その美容室の常連でした。その美容室は腕も確かでサービスもよかったのですが、予約制で、カットに1時間かかります。
知人の夫は多忙なビジネスマン。「1時間もかかるのは嫌だな」と思っていた数年前、自宅近くにQBハウスができました。10分でカットできます。どうもカットの品質もいいようです。(ちなみに料金は1200円)
彼が試しに近所にできたそのQBハウスで、以前美容室でカットした直後の写真を見せて、「こうして下さい」をお願いしてカットしてもらったところ、十分に満足いく仕上がりだったそうです。
その後、彼はQBハウスでカットするようになりました。店を変えた最大の理由は、1時間かかっていたカットが10分で済む点と、美容師さんとの煩わしい会話をせずに済む点だったそうです。
さて、美容師さんに聞かれた彼女は、正直にこう答えました。
「最近、QBハウスでカットしてますよ。結構忙しいので、家の近所だし、カットが10分だからいいそうですよ」
「は? QB…。それってなんですか?」
「10分カットの散髪屋さんですけど」
「はぁ…」
美容師さんは(よくわからない話ね)と思ったようで、別の話題を話し始めました。その美容師さんは、美容師を数十名抱える美容室チェーンで、その店を任された店長さんだったのでしたが、どうもQBハウスを知らなかったようです。
私はこの話を聞いて、こう思いました。
「色々な意味で、この店、ちょっとヤバいんじゃないかなぁ」
まず、美容師さんがQBハウスを知らない点。その美容室は男性もカットしています。多くの男性客は、知人の夫のようにQBハウスも選択肢に入れてカットする店を選んでいます。QBハウスはその美容室のかなり強力な競争相手なのです。しかしその強力な競争相手を、店長である美容師さんは認識していません。
もう一つは、知人が「10分カット」と言った時点で、全く興味を失っている点。
この美容師さんは、恐らくこう考えているのではないでしょうか?
「は? 10分カット? そんなQBなんとか言うのなんて、敵じゃないわ。だって10分カットって、髪を切るだけでしょ。ウチの美容室の方がずっとサービスが豊富だし。ウチはカットだけじゃなくって、シャンプー、整髪、マッサージ、ドライヤーの仕上げもあるし、マッサージも念入りだし、お客様との会話も気をつかっているわ」
確かに店が提供するサービスだけを比較すると、確かにQBハウスは一見はるかに見劣りします。しかしこれは機能中心にサービスを見ているからです。言い換えれば製品中心の視点で見ているのです。
顧客である知人の夫から見ると、まったく違う風景が見えてきます。
「あの美容院、確かにサービスは素晴らしいんだけどね…。シャンプーとか整髪とかは過剰サービスで、いらないんだよね。疲れているから寝ていたいのに、話しかけられるのも面倒だし。そもそも予約しなきゃいけないとか、1時間もカットにかかるとか、ほんとカンベンして欲しい。QBハウスなら、好きな時に行って10分でカットできるから、もし料金が高くても、こっちの方がいいね」
知人の夫の視点は、顧客中心の視点です。
どんなに店がゴージャスで高級サービスを提供していても、顧客中心視点がなければ、お客は質素でも顧客中心の店を選ぶのです。
自分が気がつかないうちに、美容師さんのような製品中心の視点で考えている人は、私も含めて、意外と多いかもしれません。気をつけたいですね。
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