リーダーシップの根拠は、人事権・決済権か?


企業でリーダーシップ研修を行っていると、管理職一歩手前の若手社員からこんなご質問をいただくことがあります。

「私にはまだ部下がいません。人事権と決裁権がないので、こんなことを学んでも、リーダーシップを発揮しようがないんですが…」

私も人事権・決裁権を持っていない時期が多かったので、この方のお気持ちがよくわかります。

ここで、ぜひ考えてみていただきたいのが、

「リーダーシップを発揮するために、果たして人事権や決裁権は大前提なのか?」ということです。

私はよく山登りにたとえます。

「あの山に登ると見晴らしが凄いらしい。一緒に登ってみようよ」と言って、周囲の人たちに「そんなに見晴らしが凄いんだったら、ぜひ登ってみたい」と動機づけること、つまり変えるべきことを決めてメンバーを動機づけるのが、本来のリーダーシップです。

ここでは人事権や決裁権はあまり関係ありません。

人事権や決裁権がない時期が長かったIBM時代の私は、マーケティングプロフェッショナル職として事業本部の戦略策定や実行を担当していました。この仕事は一人ではできないので、組織をまたがったプロジェクトチームを次々と作り、運営していました。

プロジェクトチームのメンバーに主体的に動いていただく必要があるのですが、私は上司でも何でもないので、人事権や決裁権を根拠にできません。そこでどのようにすればメンバーの皆さんが気持ちよく動いていただけるのか、色々と知恵を捻り出しました。

たとえば「こんな問題がある。こうすれば解決できると思うのです。あなたも同じ問題を抱えていると思います。だから一緒にやりませんか?」というような話をして、一人一人チームに参加していただいたりしました。

こんな方法で四苦八苦しながらプロジェクトチームを束ねていたある時、同じチームにいた韓国IBMのある女性マネジャーから「永井さんのリーダーシップで成果が出ましたね」と言われて、驚いたことがあります。

当時の自分は人事権や決裁権がありませんでしたし、リーダーシップを発揮している意識も全くありませんでした。「これはやらないとダメなんじゃないか?」と思って動いていただけでした。しかし結果的に、リーダーシップを発揮していたのです。

むしろ人事権や決裁権を前提にして、「これをやってください。(やらないと人事査定に響きます)」みたいなやり方は、危ういかもしれません。

仕事の規模が大きくなると、一人だけで対応できなくなります。そこで必要なのが、チームを動かすリーダーシップです。しかし、そのリーダーシップは、必ずしも人事権や決裁権は前提ではないのです。

人事権や決裁権がない時こそ、本当のリーダーシップが問われます。

そして本当のリーダーシップが問われるのは、人事権や決裁権を持った時です。なぜならつい人事権や決裁権を、人を動かす根拠として使いがちだからです。でも人事権や決裁権は、実は伝家の宝刀。伝家の宝刀は、使わないことに意味があるのです。

あなたは人を動かすとき、あなたのリーダーシップを根拠にしているでしょうか? それとも人事権や決裁権を根拠にしているでしょうか? 

   

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