Y1000に学ぶ自社視点を顧客視点に翻訳する大切さ


ヤクルトのサイトより

企業研修で、新商品や新事業を考えるワークショップを行うことがよくあります。

顧客視点の大切さをお伝えしてから、実際に新商品・新事業を考えていただくわけですが、感覚的な数字でいうと9割程度の方々が自社製品視点で発想します。こんな感じです。

「お客様は○○機能(自社商品が提供する機能)を必要としている」
「お客様は○○(自社商品が提供する機能)ができずに困っている」

これは「お客様」という言葉を使っているだけで、実際には自社製品視点から抜け出せていません。考えるべきは、

「そもそもお客さんって、誰だっけ?」
「これって、お客さんにとって何がいいの?」

です。

ここでヤクルト1000(Y1000)の事例を紹介したいと思います。

もともとヤクルトは「腸を丈夫にすれば健康になる」と考えた代田(しろた)稔博士が創業した会社です。代田博士が発見、強化培養した、生きたまま腸に届き腸内環境を改善しておなかの調子を整える乳酸菌「シロタ菌」を活かしてヤクルトが生まれました。

ヤクルト1000は、このシロタ菌が1000億個(従来比2倍)入っています。

「腸脳相関」といって、腸と脳は密接に情報を交換し合って影響を与え合っています。ここで役立つのがシロタ菌の菌密度。シロタ菌は従来比2倍の菌密度なので、脳にもいいわけです。

しかしヤクルトが素晴らしいのは、この「腸脳相関」「菌密度」という言葉をそのままマーケティング的に訴求しなかった点です。

「腸脳相関が大事です。だから菌密度を高めました」

と消費者に言っても、消費者にとっては意味不明。スルーされてオシマイです。

加えて、ヤクルト創業時と違って、いまは「腸活市場」にライバル各社が参入していて、どこも「腸活効果」を訴求しまくっています

つまりこの言葉は一見すると消費者目線の言葉ですが、消費者にスルーされてしまうという点から考えると、実は自社製品視点の発想なのです。

そこでヤクルトは、まずターゲットとして「30〜50代ビジネスパーソン」を想定し、こんな訴求をしました。

「ストレスの緩和、睡眠の質向上」

まさに30〜50代ビジネスパーソンの課題にストライクゾーンですよね。加えて乳酸菌飲料メーカーで、「睡眠カテゴリー」で想起されるメーカーはいませんでした。

ヤクルトはこうしてマーケティング戦略の足場固めをした上で、当初は限定地域に、ヤクルトレディが丁寧な説明で販売しました。その後は一部百貨店・高級スーパーで販売。次第に消費者の間口を広げ、2021年4月に全国販売を開始。

価格は、従来品のヤクルト400(80ml/シロタ菌400億個)が80円なのに対して、宅配専用のヤクルト1000(100ml/シロタ菌1000億個)は130円、店頭販売専用のY1000(110ml/シロタ菌1100億個)は150円に設定しました。

価格設定も、より高付加価値な商品属性にあわせて設定しています。

ここまで見ていけば、次の違いがわかるのではないでしょうか?

自社視点 「腸脳相関が大事です。だから菌密度を高めました」
顧客視点 「ストレスの緩和、睡眠の質向上」

最初は「自社視点」なのは当たり前のこと。マーケティングではこれを「顧客視点」に翻訳する作業が必須なのです。

御社の商品が本当に顧客視点発想か、自社視点発想に陥っていないか、改めて検証してみてはいかがでしょうか?

   

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