吉野家は、2024年8月にダチョウ関連事業への参入を発表しました。
・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む
実際に吉野家は、2024年8月にダチョウ肉を使用した「オーストリッチ丼」を期間限定で販売しています。
「なんで吉野家がダチョウを?」と思ってしまいますよね。
これはポーターの「5つの力」で分析すると、理由がわかります。
「5つの力」は、業界内の競争状況を、下記の5つの視点で分析する方法論です。
・同業者の競争
・売り手の競争力
・買い手の競争力
・新規参入の脅威
・代替品の脅威
「5つの力」では、この5要素について競争状況を把握した上で、対策を立てます。牛丼業界を「5つの力」でザックリ分析すると、こうなります。
・同業者の競争:一時期は泥沼の価格競争(最近は回避しつつある)
・売り手の競争力:中国の需要増などで牛肉が品薄に【対売り手で弱い立場】
・買い手の競争力:買い手の選択肢は多様【対買い手で弱い立場】
・新規参入の脅威:新規参入は難しい【対新規参入で強い立場】
・代替品の脅威:選択肢は多い【対代替品には、要注意】
上記の分析から、対策が必要なのは
【課題1】対買い手:消費者の要望に応えるようにする
【課題2】対売り手:牛肉の入手先を増やして、原材料調達リスクを下げる
課題1については、牛丼チェーン各社はメニューの多様化を図ってきました。
【吉野家】豚丼、から揚げ丼、カレー、…
【すき家】海鮮丼、カレー、定食、…
【松屋】定食メニュー、カレー、豚カルビ丼、…
問題は、課題2の原材料調達リスクです。
吉野家は米国産の牛のバラ肉に徹底的にこだわって使用しています。これが吉野家のこだわりであり、強みでもあります。しかしこの原材料の調達リスクが、長年頭痛の種でした。
実際に吉野家は牛肉相場に翻弄されてきました。
1980年には牛肉が調達できずに会社更生法の適用を申請。
現在も牛肉相場で業績が左右されています。
牛肉調達が、経営の首根っこを押さえているわけです。
そこで注目したのが、ダチョウなのです。
日経ビジネス2024年12月9日号で、吉野家HD社長の河村泰貴社長は、こう述べています。
『きっかけは25年ぐらい前にダチョウ肉を食べて「(味はほとんど)牛肉じゃないか」と思ったことです。そのことが記憶に残っていて、環境課題と事業課題の双方を解決する答えの一つとしてダチョウに注目しました』
それにしても、なぜダチョウなのでしょうか? 記事ではその理由も述べられています。
『ダチョウは飼育効率が非常に優れている。単純化すると牛肉が11倍、つまり1Kgの肉を増やすのに11Kgの餌が必要で、豚肉が6Kg、鶏肉が4Kgといわれています。ダチョウの飼育効率は3倍といわれており、理論上は地球環境に優しい畜産と言えます」
そこで、国内でダチョウの飼育に挑戦しています。
現在の自社農場は500羽程度。まだ収益化していません。
そこで生産コストを下げるために、ダチョウの肉以外の部分が収益化できないか探っています。
色々挑戦する中で探り当てたのが、スキンケア。ダチョウの脂は、人間の皮脂と親和性が高いのです。この化粧品事業も、あくまで生産コストを下げるのが目的です。
ダチョウの飼育ビジネスを将来的に黒字化するには、10倍の5000羽規模にする必要があります。現時点では、ふ化率やひなの生存率が低いという問題がありますので数年から10〜20年かける挑戦になります。
改めて吉野家の戦略を見直すと…
・ダチョウの飼育に投資する
・ダチョウ丼を将来的にメニューに加える
・ダチョウの脂を使ったスキンケアやフェイスマスク商品も発売する
・長期的な視点で取り組む
すべて「原材料調達リスクを下げる」という目的で、首尾一貫した戦略であることがよくわかります。
10年後、吉野家で「オーストリッチ丼」が普通に食べられるようになる頃には、吉野家の経営はかなり安定しているかもしれませんね。
■当コラムは、毎週メルマガでお届けしています。ご登録はこちらへ。