新商品開発は、大きい市場は捨てて、”弱いシグナル”を感じ取れ


多くの企業は新商品開発で、大きな市場を狙い、その市場で勝とうとします。

「大きな市場には、多くのお客様がいるし、お金も使っている。だからチャンスも大きい」というわけです。

しかし大きな市場にはライバルもいます。
市場が魅力的なほど、強いライバルも多いわけです。
そんな市場に新規参入しても。勝つのは極めて困難です。

そこで考えを180度変えてみると、新たな可能性が広がります。

まず大きな市場は捨てます。

そして将来大きな市場になりそうな、小さな市場または存在しない市場を見つけます。

このためには、アンテナを張り巡らし、実際に「お客様の生の声」を掴みます。そして、変化の兆候をいち早く見つけて確信が持てたらば、そこに全力で投資するのです。

1987年創刊の料理系雑誌『レタスクラブ』は「まじめで丁寧な暮らし」をコンセプトに、食に関心が高く一生懸命な主婦に支持されて部数を伸ばしてきましたが、一時、最盛期の1/5にまで部数を落とし、低迷していました。

そこで読者8名を選び、LINEやオフ会などで徹底的に本音を聞いたところ、夫への不満・借金・不妊など、少人数だからこそ話せる悩みや本音が次々と出てきたのです。

創刊当時とは違って現代の読者は多忙で、ワーママに限らず専業主婦も「何とか買い物に行く時間を確保している」という状態でした。求めていたのは、「まじめで丁寧な暮らし」ではなく、「なるべく楽をして、毎日を楽しむ」ことだったのです。

雑誌の内容と読者の本音との間には、大きなギャップがあったのですね。

こんな本音は、表面的な読者アンケート調査や短時間のインタビューではわかりません。少数読者の本音に向き合い、徹底的に聞き続けたからこそ、引き出せたわけです。

2017年3月、『レタスクラブ』は隔週刊を月刊に切り替えました。このタイミングで、コンセプトを「考えない、悩まない。あなたの生活をもっとラクに、楽しく!」に一新。

夏休みの手抜きご飯特集では「暑いから! 調理時間を半分に!」「これを料理と呼んでいいのか?」

今までタブーだった離婚やセックスレスもテーマに取り上げました。

すると3号連続で完売。2018年上期には発行部数でライバルの『オレンジページ』を抜き、料理系雑誌でトップに立ったのです。

 

今をときめくエヌビディアもそうです。
同社の時価総額は、現在3兆ドル超。なんと日本のGDPと並んでいます。
2兆ドルから3兆ドルまで、わずか96日。
まさに爆速で成長しています。

エヌビディアが成長したのは、現代の生成AI市場で必須となる半導体チップ「GPU」を事実上独占していることです。

そしてエヌディアもお客様に向き合い、変化の兆候をいち早く見つけて、そこに全力で投資したのです。

最新の日経ビジネス2024.12.16号の特集「エヌビディア  ジェンスン・ファンの世界最速経営」で、その経緯が紹介されています。

もともとエヌビディアは、1990年代にゲームなどの画像処理に特化した半導体チップGPUを開発していたニッチメーカーでした。

この画像処理というプロセスは、単純だけれども、膨大な量の計算を、できるだけ高速に処理しなければいけません。GPUはこのプロセスに特化していたのです。

2006年、同社はこのGPUを高速化する開発環境「CUDA(クーダ)」を公開しました。もともとCUDAは、GPUを画像処理以外の汎用的な計算で利用することを狙っていました。(当時はAI前提ではありませんでした)

2008年、同社のインターンだったブライアン・カタンザーロ氏は、「GPUは、AIの分析技術である機械学習に、非常に適しているのではないか」と考えました。

機械学習も、単純だけれども膨大な量の計算を、できるだけ速く処理する必要があります。ゲームの画像処理と同じ性質を持っていました。

2011年、カタンザーロ氏は同社に正式入社すると、機械学習の一種であるディープラーニングとGPUについて研究を始めました。

2012年、のちに2024年のノーベル物理学賞を受賞するヒントン氏らが、たった2基のGPUを使ってAI画像処理コンテストで優勝する、という出来事が起こりました。AI界隈ではこのことは大きな話題になりました。

この頃から、カタンザーロ氏を中心とする同社エンジニアチームは、デュープラーニング向けにしたCUDAを開発。

そして2013年、カタンザーロ氏は米スタンフォード大学と共同で、グーグルの1000台のCPUを、わずか3台のGPUで置き換える実験に成功しました。GPUの圧倒的な性能を示したわけです。

カタンザーロ氏は、こうして盛り上がっている様子を、ファンCEOに報告。

そして2014年3月、同社の年次イベントで、ファンCEOはそれまでほとんど語っていなかったAIやディープラーニングについて語り始めました。

エヌビディアがAI市場に大きく舵を切ったのは、まさにこのタイミングです。

こして2013年当時はごく小さかった市場は急速に成長を始めて、同社はその市場をGPUで独占したわけです。

 

大きな市場にいる多数のお客様から得られる平均的な意見は、すでにライバルも知っている表面化したニーズです。ですから、ライバルとの消耗戦に陥りがちです。

ヒット商品のヒントは、まだ多くの人が気づいていない潜在的なニーズの中にあります。

レタスクラブとエヌビディアに共通するのは、市場の変化を示す”弱いシグナル”をいち早く掴み、まだ小さい市場に全力投球していることです。

そしてその市場には、他の選択肢がなくて困っている少数のお客様がいます。

そのお客様に徹底して向き合うことです。

御社は、お客様が発する”弱いシグナル”を感じとっていますでしょうか?

     

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