
現代では「より働きやすい会社」にならないと生き残れません。そこでチームメンバーの悩みを理解して支援するために、多くの会社が「1on1」を展開しています。
しかし「1on1をやれば、何か成果が出るだろう」と考えている企業も少なくありません。
そして「1on1をやったけど、成果が出ない」という悩む会社も結構多いのです。
多くの場合、これはやり方を間違っています。大きく分けて、次の二つです。
① 1on1を「教える場」と勘違いしている
② ちょっとした工夫が足りない
それぞれ見ていきましょう。
① 1on1を「教える場」と勘違いしている
多くの企業では、プレイヤーとして大きな成果を出した人が昇進してマネジャーをやっています。この結果、マネジャー本人はスキルが高く、マネジャー就任前もトッププレイヤーとして後輩たちに教えてきていることが多いのです。
このためマネジャーはよかれと思って「困っていたら、教えてあげよう」がデフォルトになりがちです。
しかし1on1は本来、「メンバーの悩みを理解し、メンバーが自律的に成長するのを支援する場」であって、必ずしも「教える場」ではありません。
なぜならメンバーは、人によって様々な悩みを持っているからです。じっくり聞かないとそれらは理解できませんし、解決策も千差万別です。
そして何よりも大切なのはメンバー自身の「ハラ落ち感」です。
このため1on1では「ティーチング」だけでなく、「コーチング」を使うことも必要になります。
ティーチングは、「自分が答えを知っているから、相手に教えてあげる」という方法論です。学校の先生や研修講師が行う方法です。
コーチングは逆に、「答えは相手の中に既にある。だからから、答えを引き出す支援をして、一緒に解決策を考えていく」という方法論です。
1on1では、ディフォルト設定をティーチングではなくコーチングにした上で、必要に応じてティーチングも交えて行うことが必要です。
しかし多くのマネジャーは、ティーチングはほぼプロですが、コーチングはほとんど学んだことがなくほぼ素人。逆にティーチングがデフォルトになりがちです。
このためメンバーの悩みを聞くと、脊髄反射で「それはこうすればいいよ」となるのです。
本来、メンバー一人ひとりの状況を聞き届け、本人がやりたいことや大事にしている価値感を引き出して、メンバーが納得感を持って自分で答えを出して、自律的に成長していくのを支援する必要があります。
ここで必要なのが、コーチングなのです。
しかし中には「1on1をやれば成果が出るだろう」と考えて、「マネジャーは毎月一回、メンバーと1on1を実施すること」という方針を出したり、1on1の実施件数をトラッキングする会社もあります。
こうして1on1でせっかくメンバーが個人的な悩みをポツポツと話し始めても、マネジャーが自分の経験をもとに
「そんな時こそ、こうしなきゃ」
といったような対応を即座にされたりすると、メンバーは
(それ、自分の状況だと、ちょっと違うんだけど。もうちょっと話を聞いて欲しいんだけどな…)
となりがちです。
マネジャーは会社の指示で定期的に1on1を行わされ、メンバーは「今日は1on1…。また指導か…」となったりすると、困ってしまいますよね。
ではどうすればいいのでしょうか?
まず1on1を全社で展開する前に、マネジャーに1on1のあるべき姿とコーチングの教育を行うことです。
たとえマネジャーがコーチングのプロにならなくても、「コーチングが必要なんだな」と問題意識を持つだけで、こうした状況は随分と変わります。
② ちょっとした工夫が足りない
一方で、せっかくコーチングを学び1on1を実施しても…
「コーチングしたけど、部下が心を開いてくれない」
という悩むマネジャーは少なくありません。
これはちょっとしたところに原因があることが多いのです。
ハーバード・ビジネス・レビュー 2025年10月号に、「あなたが聞き上手になれない5つの理由」という論文が掲載されています。参考になるので、概要をご紹介します。
その「5つの理由」とは、❶焦り、❷防御的態度、❸みえにくさ、❹疲労、❺行動しない、です。個別に見ていきましょう。
❶焦り
1on1の終了時間が気になり、焦って質問に性急に答えてしまいます。メンバーからすると「もっとしっかり聞いて欲しいのになぁ」と思いますよね。せっかちなマネジャーだとありがちです。
対策は、十分に時間をとって1on1を行うことです。
❷防御的態度
批判的な意見に対して防御的になって、メンバーの信頼感と士気を損います。
「会社のこの方針、納得いかないんですよね」なんて言われると、マネジャーはつい(それは、ちゃんと理解してないからだよ)と言いたくなったりするかもしれません。でも、せっかく本音を言ってくれたのに、もったいないですよね。
対策は、まず共感を示すことです。
「なるほど、そう考えていたのか。確かにそう思っていたら、辛いよね」
と、相手の考えをまず受け止めることです。ただこれは、相手に同調しろというわけではありません。共感と意見は違います。
共感した上で「でも、自分はちょっと違う意見なんだよね」というように話せば、相手も意見の相違に対処しやすくなります。
❸みえにくさ
せっかくメンバーの話を傾聴しているのに、その態度を見える形で示さないケースです。
たとえばいつものクセでつい無意識に腕時計を見ると、話す側は(自分の話よりも、次の打合せの方が大事なんだな)と思いますし、腕を組み目を閉じて相手の話をじっくり聞いているつもりでも、話す側は(オイオイ、寝るなよ。真剣に話しているんだよ)と思ったりします。
対策は、ボディーランゲージで傾聴を示すことです。
ちょっとしたことですが、自分の意図は意外と相手に伝わっていません。言葉と態度と表情をフル動員してコミュニケーションを取ることで、こうした誤解はかなり減ります。
❹疲労
肉体的・精神的疲労で集中力や判断力が低下して、不適切な態度を取ってしまいます。
マネジャーはいろいろな難題を抱えて忙しいので、疲労が溜まりがちです。そんな時に1on1を行うと、些細な事でつい感情的になりがちです。こうなると、リカバリーがなかなか難しいですね。
対応策は、話せる時間を明確化すること。もし疲れていたら、躊躇せずリスケです。またメンバーの数が多い場合は、チームのサブリーダーに1on1を任せて、チームで負担を分担する方法も有効です。
❺行動しない
1on1でちゃんとメッセージを受け取ったのに、適切な対応を取らないのがコレです。
メンバーからすると、貴重な時間をとって大切な話をして、マネジャーとせっかく合意したのに、何もやってくれなければ、逆に不信感が生まれるだけです。こんな1on1なら、やらないほうがいいかもしれません。
対応策は、1on1の中で必ず対話を完結させること。内容を確認し、対応とスケジュール合意まで持っていきます。「じゃぁ、後でフォローするから」といっても、マネジャーは忙しいので、まず後でフォローなんてできません。
ときどき「部下の不満が溜まっているから、1on1でガス抜きしよう」と考えるマネジャーを見かけますが、この考え方も間違っています。
それはご本人が「自分はガス抜きされたいだろうか?」と自分に問いかけるとわかるのではないでしょうか。必要なのは、相手の悩みを真正面から聞き届けて、必要な支援をしっかりすることです。
1on1は「ガス抜き」ではなく、「ガチ真剣勝負」なのです。
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