環境とビジネスを強かに両立させるブリジストンのパーパス経営

クルマのタイヤは「ゴムでできていて、空気が入っている」のが常識ですが、この常識に挑戦しているのがブリヂストンです。

同社は「エアフリー」と言う新しいタイヤを開発中です。Diamond Weekly 2025.11.15号にこの記事がありますので、概要を紹介しつつ、その意味を考えていきましょう。

写真を見るとわかるように、エアフリーの表面はゴムですが、内部は空気ではなく樹脂で支えます。こうした構造なので、パンクしません。これから普及する運転手が乗らない自動運転とも相性が良さそうです。

ただ、大きな問題があります。コストです。既存のタイヤでは空気が占める部分に、エアフリーは樹脂を大量に使っています。こんな構造なので、既存のゴム製タイヤよりも安くはなりません。

それでもエアフリーの事業化を進めている理由は、2つあります。

①天然ゴムの使用量を減らせる

既存のタイヤは、表面が摩耗すればタイヤごと交換です。エアフリーは表面の張り替えだけでOK。内側の樹脂部分は10年程度使えます。樹脂部分の耐用年数が過ぎれば、樹脂部分を熱で溶かすことで、再びエアフリーの原材料になります。

現在、天然ゴムの生産量は供給不足が続き、取り合いです。世界人口も増えるので、同社にとって天然ゴムの使用量を減らすことは経営課題です。天然ゴムの使用量削減は、大きな意味があるわけです。

②ロイヤルティが高いユーザーを獲得できる

私は以前クルマを持っていましたが、タイヤ交換は頭痛のタネでした。オートバックスなどで安いタイヤを探して交換していて、タイヤメーカーはほとんど気にしませんでした。

この記事でも「タイヤ交換で新車装着と同じメーカーを求めるユーザーは1割程度」という声が紹介されています。タイヤのユーザーは、ロイヤルティが低いのです。

しかし「パンクしない」「摩耗したら張り替えるだけ」というエアフリーならではの価値を訴求できれば、ブリジストンを指名買いする要因になり、ロイヤルティが高い顧客を獲得できます。

これは成功すれば、価格競争の売り切りビジネスから脱却し、顧客生涯価値が高いサービスビジネスに変革できることになります。

以上が同記事のサマリーです。そこでこのエアフリーの挑戦について考察してみましょう。

最近、企業の存在意義を明確にした「パーパス経営」が重視されるようになりました。

いまや働く企業を選ぶ基準もパーパス重視です。入社のタイミングでパーパスを重視したかどうかを尋ねたウォンテッドリーの調査によると、「かなり重視した」人は、2017年の18%から、2022年は36%に倍増しています。

ちなみにブリヂストンのパーパスは「社会の進歩に貢献する」です。

一方で残念なパーパス経営もあります。こんなパターンです。
「パーパスを掲げたけれども、誰も本気でやらない」
「逆に儲からないのに社会貢献ばかりやっている」

本来、パーパス経営では社会的な意義(パーパス)と商業的な意義(利益)の両立が求められています。利益が伴うことで、はじめて継続的に本気でパーパスを追究できるからです。

当然ながら、社会的な意義と商業的な意義の両立は二律相反なので、とても難しいですよね。

「社会の進歩に貢献する」というパーパスを掲げるブリヂストンのエアフリーは、まさに本気でこの両立を図ろうとしていることがわかります。

社会的な意義:天然ゴム使用量を削減して環境負荷を減らすことで、社会の進歩に貢献できる
商業的な意義:顧客生涯価値を高めることで、安定した収益基盤になり得る

当然ながら技術・ビジネスの両面でとても困難な挑戦です。しかしこれは、成功すれば他社が模倣しにくく、参入障壁も高いビジネスとなり、ブリヂストンならではの高収益ビジネスになる、という裏返しでもあります。

皆様が取り組む新規事業も、このような視点で考えてみると、意外と大きなチャンスが身近にあるかもしれません。


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