
AIで便利な世の中になりました。こんな意見も増えています。
「会議の論点整理は、AIに任せよう」
「パワポ資料は、AIに作らせれば瞬時にできる」
「AIを使わない人は、AIを使う人に駆逐される」
AIを使えば、脳を使わずに用事が片付きます。タイパも最高。便利ですよね。
「AIはあなたの拡張知能です。あなたはAIへの指示と結果の判断だけを考えればいい。AIとの対話で、自分の思考を深掘りしましょう」
…という人もいます。
「AIは思考を深掘りする道具になる」という部分には私も賛成ですが、反論もあります。
運動しないと筋肉が退化するように、AIに思考を丸投げし続けると脳は退化します。
脳を鍛えて思考を深めるには、具体的に考え続けることです。
私が企業研修で痛感していることです。
たとえば今晩行う『永井経営塾』のZoomワークショップのテーマ「チームのやる気を引き出すワークショップ」で、考えてみましょう。
このワークショップでは内発的動機づけや心理的安全性の考え方を学んだ上で、チームメンバーがやる気を出す対応策を次のように考えていただきます。
①現在の具体的な課題
②課題の分析
③あるべき姿
④あるべき姿を実現する方法
参加者の多くはAIを使わずに自分で考えますが、「課題の分析」はこんな例が多いのです。
・メンバーの○○の優先順位が低い
・メンバーのモチベーションが下がっている
・自律性・有能感を損なっている
・○○優先の悪循環に陥っている
・時間が割けない
・最低限の対応しかやらない
これらは課題の分析ではありません。課題の現象です。
本来、「課題の分析」で考えるべきことは、自分のチームを観察した上で、これらの現象の根本にある「原因が何か」を、より深く「分析」することです。
・なぜ、メンバーの○○の優先順位が低いのか?
・なぜ、メンバーのモチベーションが下がっているのか?
・なぜ、自律性・有能感を損っているのか?
・なぜ、○○優先の悪循環に陥っているのか?
・なぜ、時間が割けないのか?
・なぜ、最低限の対応しかできないのか?
こうした原因を考えるには、日頃自分がチームと接して感じる「雰囲気」や「何げない反応」といった、言葉にできない体験や感覚を深掘りし、具体的に考えていく必要があります。その上で、
・そもそも相手がそのように行動する理由は、なぜなのか?
・その原因は、もしかしたら自分の行動にあるのではないか?
と思考を深めていくことで、次第に原因が明らかになり、解決策が見えてきます。
たとえばこんな感じです。
「そう言えば、自分はメンバーの行動に必ず細かくコメントしてきたな。もしかしたらこれで、メンバーが『どうせ細かく指示されるから、言われる通りソツなくやればいい』って考えるようになったのかもしれないな。よくよく考えれば、自分はメンバーの自律性を尊重してなかったぞ」
こうした思考を繰り返して内省を深めることで、現実的な対応ができるようになり、この人の場合はチームメンバーのやる気が復活して、チーム力が徐々に改善していくのです。
ビジネスパーソンとして力量を高めるには、普段からこのように
・なぜなんだろう?
・どこに具体的な問題があるのか?
・どのようにすれば具体的に解決できるのか?
…ということを、アナログな世界で考え続けることが必要です。
すぐに答えは出て来ません。
しかし何日間も考え続けるうちに、何かのきっかけでヒントが見えることもあります。こうしたヒントを糸口に答えをたぐり寄せていくことで思考が深まり、ビジネスパーソンとしての力量が徐々についていきます。
実はAIは、ともするとこうしたプロセスを邪魔します。
AIに「部下がやる気が出ないんです。どうすればいいですか?」と相談すると、一見すると実に的確な答えを次々と出してくれます。
AIを使える方は、試しにこの質問をAIに投げてみてください。
「なるほど、こう考えればいいのか!」と納得する人も多いでしょう。
しかしそれらは、世の中の様々な情報から紡ぎ出した「一般論」でしかありません。
目の前でやる気を失っているメンバーの現実は、実に様々です。一般論なんて通用しません。自分が現実に即して考えて、具体的に答えを出すしかありません。
しかし思考をAIに丸投げし続けて筋力が落ちている状態になると、こうした状況にいかに具体的に対応するかという力も落ちてしまいます。
やる気を失ったメンバーと1on1を繰り返した末に、相手が少し心を開き始めて、「…実は、こんなことで、どうすればいいか悩んでいます」と語り始めた時、「なるほどねぇ」と言いながらスマホを取り出し、AIに対応方法を聞き始めるとどうでしょう? 瞬時に(なんだ。AI頼りか。話を聞く気がないんだな)と値踏みされ、また心を閉じるだけです。
これが、AIに思考を丸投げして筋力が落ちた状態です。
「AIを使うな」ということではありません。
「AIへの思考の丸投げはやめて、あくまで思考の補助として使い、自分の頭で考え続けよう」ということです。
ちなみにAI活用でいうと、私も毎週のブログや著書の執筆では、AIは使わないようにしています。
AIは整った文章を作ってくれますし、ロジックの破綻もありません。
でもすぐに「AIで作ったんだな」とわかります。
人が考えて作る文章は、必ずしも完璧ではありません。しかし「その人ならでは」の思考のクセや個性が、必ず文章の端々から滲み出てきます。
ご覧の通り、こうして書いている私のこの文章もクセだらけで、つっこみどころ満載です。
AIが作った無個性で主張もない文章には、これがありません。
私の知人が最近こう言っていました。
「AIで作った文章はすぐわかりますよ。『これ、AIで作ったな』とわかった時点で、もうその文章は読みませんね」
確かに読む方からすると、「忙しいのに、なんでAIが秒で作った文章を読まなければいけないの?」と思ってしまいますよね。
不思議なもので、文章の中で、AIを一部しか使っていなくても、不思議とわかります。使っている部分だけ文の調子が変わるからです。怖いですね。
とは言え、人間が時間をかけないと辿り着けない問題に対して、AIは「70〜90点の正解」を瞬時に出してくれます。AIを活用した研究者がノーベル賞を受賞する時代です。既にAIが存在する現代、私たちは今後もAIを使わざるをえません。
しかしそんな時代だからこそ、AIに頼らずに、自分で考え続ける領域も確保する必要がある、と私は思います。
筋力は使わないと退化するように、脳も思考しないと退化します。
そしてAI時代も、思考力を使わずに仕事ができてしまいます。
念のため言っておくと、プロンプトを考えるのは、思考ではありません。
それは「単なる作業」です。
私は「AIは壁打ちの相手です」と言い続けています。
しかしAIに質問を投げた結果を出してきて「これは、AIと壁打ちして作りました」と言っている人が、少なくありません。これは「壁打ち」ではありません。
「壁打ち」とは、自分で思考の軸(前提条件→自分の仮説→仮説で未検証な部分)を明確に作った上で、この思考の前提をAIにちゃんと伝え、未検証な部分についてAIと繰り返し対話しながら検証していくことです。
加えてAIは正確ではありませんし、平気でウソもつくので、ちゃんと引用元を明示させた上で、実際に自分で検証する必要があります。
こういうことをせずに、世の中にある「プロンプト集」から、使えそうなものを探して、AIに一方的に投げて、その答えをコピペする作業は、「壁打ち」ではありません。
こうしてAIにプロンプトを投げる作業だけやっていると、思考力は退化し続けるのです。
AIに思考を丸投げするのはやめて、自分の思考力を使い続けるか否かが、今後の分かれ目になります。
こう考えると
「AIを使わない人は、
AIを使う人に駆逐される」
というよりも、
「AIに思考を丸投げする人は、
AIを使って思考し続ける人に駆逐される」
というのが、正しいのではないかと思います。
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