「お客様が買う理由を考えよう」と題して講演した後、懇親会でこんなお話しをいただきました。
「価格勝負から抜け出して、価値を創り出し、価値勝負にしよう」というお話しはとても共感します。ただ現実は、値引きの要請がとても強いのが現状で、価格勝負からなかなか抜け出せません。
そこで「御社の商品の品質や価値は、他社と比べてそんなに変わらないのでしょうか?」とお伺いすると、「他社と比べてまったく違います。絶対の自信があります」というお答え。
詳しくお話しをお伺いすると、このお客様では、ありがちな「製品中心」の考え方には陥っておらず、本当に消費者からの評価も高いようです。
では、なぜ価格勝負に陥ってしまうのか?
より詳しくお話しをお伺いして、なるほどと思いました。
皆さん、理由はわかりますでしょうか?
実は営業の日々の仕事が、問屋やメーカーといった取引先に会うことで忙殺されていて、最終消費者に会えていないのです。
言い換えれば、営業チームが、消費者の生の声を把握できていないのです。
そこで「当社の製品は高い品質で、消費者からも支持いただいています」と言っても十分な説得力がなく、「そうですか。いいですね」とスルーされてしまい、「で、これだけの量を買いますが、値引きはコレでお願いします」という価格交渉に陥っていたのです。
では、どうすればいいのか?
お客様には、「最終消費者」と「仲介者」の2種類があります。
本当に必要なことは、最終消費者に接し、最終消費者が何を必要としているのかを学び続け、最終消費者が「少々高くても、是非欲しい」という商品を育てること。
商品の価値を享受するのは、最終消費者だからです。
以下は、1年半前に上梓した『「戦略力」が身につく方法』(PHPビジネス新書)でご紹介した事例です。
ある樹脂メーカーは、顧客である塗料メーカー向けに新しい化学樹脂を開発しました。「環境に優しい塗料が必要」と想定して環境性能に優れた樹脂を新開発し、その樹脂を使った塗料を発売しましたが、顧客の顧客である塗装業者の反応は冷ややかで、売れませんでした。
そこで樹脂メーカーはどうしたか?
塗装業者に調査をしました。意外なことがわかりました。環境性能の優先順位は高くないこと。そして一方で、塗装コストのほとんどは人件費で、実際の塗料コストは全体のわずか一五%だったことです。
そこで樹脂メーカーはバリュープロポジションを見直し、塗料に用いると乾燥時間が短くなる化学樹脂を発売しました。標準の1.4倍の価格でしたが、塗料メーカーに飛ぶように売れました。乾燥時間の短縮によって塗装業者の生産性が向上し、人件費の削減につながったからです。
素材メーカーや問屋販売の商売であればなおさらのこと、「最終消費者が、何でお金を払うか」を理解することがとても大切になります。