1/4インチ・ドリルとソリューション・マーケティング


T.レビットは、「顧客は1/4インチのドリルが欲しいわけではない。1/4インチの穴が欲しいのだ」と言いましたが、ソリューション・マーケティングの発想の根幹はまさにここにあります。

しかしながら、「1/4インチの穴が欲しい」というお客様の課題を理解せずに、自社のドリルの性能を一方的に語るマーケティングが非常に多いのも、残念ながら現実です。

考えてみると、「1/4インチの穴が欲しい」というお客様の課題も状況によって様々です。

(Aさん): 自分自身で沢山の穴を効率的に空けたい
⇒Aさんはドリルを買うことになりますが、この場合も、正確に1/4インチの穴を空けたいケース、短時間で沢山効率的に空けたいケース、正確さや効率を問わず取りあえず穴があけられればよいケース、等、ニーズは様々です。IT業界で言えば、このようなお客様にハードやソフト等の解決手段をご提案することになりますが、お客様がドリルに何を求めているのか理解せずに一方的にスペックを訴求しても、成果は得られません。

(Bさん): それほど沢山の穴を空ける訳ではないが、他人に任せたくないので自分自身で空けたい
⇒Bさんの場合、ドリルを借りる、というのも選択肢です。ただ、この場合も、借り易さ、ドリルの種類の充実度、価格、貸し出し期間等、お客様によって重視する内容は異なります。IT業界の場合、このようなお客様には例えばASPをご提案することになりますが、お客様が何を重視なさっているのかを理解する重要性は変わりません。

(Cさん): 不器用だし面倒なので他人に任せたい。
⇒Cさんの場合、穴を空ける専門の業者さんにお願いすることになるでしょう。IT業界で言えばBPOがこれに該当しますが、お客様に合わせたカストマイズが重要になりそうです。

(Dさん): そもそも穴が必要なのか?他の方法があるのではないか?
⇒Dさんの場合、専門家の意見を聞く、という選択肢があります。例えば穴を空けて部品を固定しようとしている場合はむしろクギや接着剤で接続する方がよい場合もありそうです。IT業界で言えば、コンサルテーションが該当します。

 

いずれの場合も、お客様の課題をどれだけ捉えられているのか、その課題をどのように解決するのか、その解決策に対して自社ならではのバリュー・プロポジションを定義できるか、等がポイントになります。

このように、お客様の課題を把握し、製品やサービスを組み合わせてその課題を解決しようとする考え方が、ソリューションです。

ここで私達が注意しなければならないのは、商品やサービス単体ではお客様の課題全体を必ずしも解決できないことです。

例えば、Aさんの場合、単にドリルを買うだけでは、穴がうまく空けられない可能性があります。ドリルの使い方等もお教えする必要もあるでしょう。さらに、日曜大工のコミュニティを作って参加いただくことで、お客様は日曜大工の楽しさを得ることもできるかもしれません。

ソリューション・マーケティングを考える場合、お客様の課題全体を考えて、いかに他社を含めた商品やサービスを組み合わせてご提案するかがカギになります。(こう書くと、あまりにも当り前のことですが)

特に日本のお客様は、ハード製品やソフト製品を個別に購入するのではなく、ソリューション全体を統合できるベンダーに依頼される傾向が欧米よりも高く、ソリューション・マーケティングは極めて重要です。

1/4インチ・ドリルとソリューション・マーケティング」への7件のフィードバック

  1. 「“ドリルマニア”なので、純粋に工具として優れたドリルそのものが欲しい」という要求だってあるハズですよね。(すいません、揚げ足取り的な茶々を入れて)

  2. くまさん、
    確かに、ソレもアリですね。写真を撮らないけどメカとしてのカメラが大好きで買う、という人も世の中に多いですし。(欧州系カメラに多いようですが)
    ナイスなつっこみ、ありがとうございました。
    そう言えば、3年ほど前にIBMのSystem/390がYahoo!オークションに出ていましたね。あれも愛玩物なんでしょうか?落札できたのかどうかは分かりませんけど。

  3. “「何のためにドリルを使うのだろう」と一生懸命顧客の身になって考えたのに、結局ドリルが欲しかっただけかい!”ということが、ITソリューションの世界でも往々にしてありがちですよね。(例えばあまり社内検討もせずにCRMを導入したりとか)
    これからも良い記事を期待しています。

  4. くまさん、
    ありがとうございます。おっしゃる点、重要なポイントだと思います。
    例で挙げられたCRMも、本来はITの問題ではなく、ビジネス変革の問題ですよね。
    もしお客様が顧客中心ビジネスモデルがどうあるべきかを十分に検討なさっていない場合は、お客様の成功のために、その必要性をご提案するような活動も必要と思います。(なかなか難しいことですが)
    まぁ、カメラ等の趣味の世界では全く問題ないのですが。(^^;
     
    >>これからも良い記事を期待しています。
    ありがとうございます。

  5. 永井さん、こんばんは。レビットの話は修士論文で私も引用しましたよ。(^^)あるスーパーでこんなことがありました。店員が砂糖を店頭に積んでたんです。お客さまがその砂糖を買おうとしたとき、店員が「お客様、もしお急ぎで必要ないのなら、明日から日替り特売になるので、今日買わないほうがいいですよ」って言ったんです。商売気が無いと会社から怒られそうな出来事なんですが、翌日お客様は、わざわざ、その店員のところに来て、「ありがとう」って。その後常連さんになってしまいましたよ。

  6. 田中さん、
    とてもよいお話、ありがとうございました。
    恐らく、その方は、「小売業は、お客様に品物を売っているのではなく、満足を売っているのだ」というように考えていらっしゃるのでしょうね。

  7. セオドア・レビット(Theodore Levitt)

    mixiのマーケティング・コミュでセオドア・レビットさんの『訃報の投稿』を拝見したんですが、 ぶっちゃけ小職、はじめて耳にしたお名前でした。(恥) で、早速ググってみましたところ... 以前の記事、『マーケターの存在価値が問われる』で掲載した格言はこのレビッ…..

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