カメラ業界の大激震2


本日(5/23)の日本経済新聞の記事「精密機器メーカー 選別の波」で、精密機器メーカーにデジタル化と価格下落の荒波が襲っている、ということが書かれています。

ここ数年間、高成長を続けてきたデジカメ業界ですが、基幹部品はCCD等の画像センサーに移り、PCと同様にコンポーネット化が進み、フィルム時代は数年に一度だった新製品投入サイクルは半年程度に短縮、価格も年率1割のペースで下落している、ということです。

先日、「カメラ業界の大激震」について書きましたが、これをさらに詳しく述べた内容になっています。

現在読んでいるクレイトン・クリステンセンとマイケル・レイナー共著の「イノベーションの解」で、この構造を説明する理論が紹介されています。

本書では、市場変化に合わせて製品アーキテクチャー戦略をいかに変えていくべきかを述べていますが、この理論を当てはめると、この業界の競争基盤はまさに転換点に差し掛かっていることが分かります。

製品の性能が顧客が必要とする性能よりも低い場合、つまり顧客ニーズを満たすにはまだ十分でない状況では、企業は出来る限り優れた製品を作ることで競争しなければなりません。この場合、独自仕様アーキテクチャーを基に性能を最適化する企業に、大きな競争優位が約束されます。

非常に単純化すると、デジカメの場合は、主に画素数や画質をいかに高めていくかで勝負してきました。

一方、製品の性能が顧客が必要とする性能を超えた時点で、市場の競争基盤が変わります

性能過剰な段階になると、顧客は「何が十分でないか」を定義し直すようになります。改良製品を喜んで受け入れるものの、それを手に入れるために割増価格を支払おうとはしません。むしろ利便性やカスタマイゼーション等に割増価格を支払おうとします。

デジカメの場合、例えばA4程度の大きさに印刷する際に必要な画素数と画質はほぼ達成済です。従って、プロフェッショナル用は別として、一般的な使用ではこれ以上の画素数は必要ありません。

この競争圧力により、性能不足の段階で有利だった独自仕様アーキテクチャーが、性能過剰な段階ではモジュール型設計に進化します。

モジュール型は、設計面で冗長度が高い標準インターフェイスに基づくため、性能面では妥協を強いられます。しかし性能過剰な段階ですのでこれは大きな問題になりません。

むしろ、全体を設計し直す必要がないため、新製品を早く市場に出すことで、競争優位を得られます。

記事の中で、「デジカメの基幹部品がCCD等の画像センサーに移った」というのは、まさにこのことを示しています。

本書はまた、「コモディティ化がバリューチェーンのどこかで作用しているときは、必ず(莫大な富を創出する)脱コモディティ化という補完的なプロセスがバリューチェーンの別の場所で作用している」と述べています。

パソコンの場合のCPUやOS同様、コモディティ化した完成製品としてのデジカメの場合は、画像センサー等がこれに該当しそうです。

カメラ業界の大激震2」への6件のフィードバック

  1. >本書はまた、「コモディティ化がバリューチェーンのどこかで作用しているときは、必ず(莫大な富を創出する)脱コモディティ化という補完的なプロセスがバリューチェーンの別の場所で作用している」と述べています。
    ↑の部分が特におもしろいと思います。陰が極まれば陽を生じるみたいなメカニズムですね。
    クリステンセンの同書を私も読み進めてますが、彼が注釈でぽろっと、服飾ブランドの生み出す価値など自分にはわからないと白状しています。クリステンセンの枠組みは製造業には適用できるけれども、経験価値を生み出す業種には適用しにくいかもなぁと思ったりしています。

  2. 今泉さん、コメントありがとうございます。
    競争基盤が変わるとバリューチェーンのパワーがシフトするという指摘、おっしゃる通り面白いですね。
    クリステンセンの指摘は、ハッとさせられるものが多いのですが、ブランドの観点以外にも、例えば下記のような批判もあるようですね。
    http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20060509/102005/

  3. 妻の叔母いわく「なんで、技術ってちょっとずつ改善されるのかねえ。どーんと、いっぺんに良くなってくれればいいのに」:-)
    > 一般的な使用ではこれ以上の画素数は必要ありません。
    300万画素くらいの頃からも言われていた気がしますが、いまや1000万画素のコンパクトカメラなんてのがありますね。感度が下がらないなら、画素は多いほうが便利ではあります。2000万画素が同じ値段とサイズ(と感度)で出てきたら、そっちを買うかも 🙂
    まあ、(CPU の周波数競争と同じく)高画素化は一段楽するでしょうが、まだまだ「手振れ補正」「高感度」「広角」(+軽量&薄型化)といったトレンドがあり、これらは機能面ですよね。画素数が増えても、何ピクセルもぶれた写真が撮れるだけなら意味がありませんので、実は性能向上の戦いは続くと思います。
    そのうちデュアルコアとかいって、ステレオカメラが出てくるに違いない(←これはウソ)

  4. mohnoさん、コメントありがとうございました。(^^)/
    画素数についてはメーカーによって意見が分かれているようですね。普及版デジタル一眼もこの3-4年前から600-800万画素クラスで定着しており、価格下落が続いています。実は画素数と画質は単純な比例関係にはないのですが、銀塩フィルムの画質に追いついたということで、画素数そのものの競争は一段落したと考えてよいのではないでしょうか?
    個人的には、作品としてではなく記念写真として取る場合は、ファイルが無意味に大きくなるのを抑える為に600万画素の機種でも中サイズ(2816×2112まで選べるのですが2272×1704)、画質はファインでセットしています。これで大サイズ・高画質の場合と比べてファイルサイズが、1/4になりますが仮にキャビネまで伸ばす場合でも十分なサイズです。(^^) 私は作品として写真を撮る場合は、1110万画素のデジタル一眼で大サイズ・最高画質で撮影していますが、これは一般ユーザーにとっては過剰性能のような気がします。一枚で5MB位になるし。(^^;)
     
    製品性能のパラメーターをどこに取るか、という問題ですが、デジカメについて「画素数」をパラメーターに取った理由は、これが画質面で既存の銀塩フィルムを代替することで市場規模を規定する性能面のおおまかな目安になるからです。デジカメの出荷数が銀塩フィルムカメラの出荷数を追い抜いたのは、ちょうどデジカメの画質が銀塩フィルムカメラの画質に追いついた時期にほぼ符合します。
     
    ≫「手振れ補正」「高感度」「広角」(+軽量&薄型化)
    製品リリースサイクルが半年になっていますし、「性能過剰な段階」では顧客は「利便性の向上」を求めますので、ご指摘の通り、そちらの方向に進化していくと思います。
    手振れ補正や高感度は、失敗を減らす、暗い場所で撮影できる等の利便性向上を狙ったものですし、軽量・薄型化は携帯性向上を狙ったものですネ。広角化・高ズーム化については、性能向上と言えるかもしれませんし、高感度もISO 1600とかISO 12800(そう言えば、昔Canon A-1ってありましたネ。懐かしいですネ)とかも出てくる可能性がありますが….。ただ、画素数が銀塩フィルムを代替する性能面の基準となったのと比べると、高ズーム比・高感度化は市場規模を左右する程の影響度はないでしょうネ。

  5. > 画素数そのものの競争は一段落した
    そう思います。
    ただ、フィルムカメラ vs. デジタルカメラという点では、たとえば“起動時間”なども要素としてあったかと思います。妻は、これが理由でフィルムのコンパクトカメラを使っていました。使い捨てカメラもありますし、画質は二の次という利用者層はあるのではないかと。
    もちろん、全体的には「銀塩とそん色ない画質」がデジカメのブレークスルーではあったと思います。
    ・・・なんていっているうちに:-O
    http://www.iwate-np.co.jp/newspack/cgi-bin/newspack.cgi?economics+CN2006052501002900_1

  6. mohnoさん、こんにちは。
    起動時間、おっしゃる通りですね。私が3年前に買った機種も1-2秒かかっていましたが、最近買い換えた機種は銀塩フィルム並にかなり早くなっていました。
    実は撮影して困るのはシャッターを押してから実際に撮影されるまでのタイムラグだったりします。3-4年前のコンパクトデジカメの平均値は0.3秒程度だったようです。これだと決定的瞬間を完全に逃してしまいます。例えば「いいな」と思った瞬間の表情を撮ろうとしても、人の表情は0.3秒程度で完全に変わるので、撮影できません。
    最近のコンパクトデジカメは、実測値ではありませんが、カメラ店の店頭で色々と試した限りでは0.1秒以下になっているようです。これであれば銀塩フィルムカメラと同等以上で、実用上は問題ないレベルですネ。
     
    ところで、私もキヤノンの銀塩フィルムカメラ撤退のニュースを先程のWBSで知りました。本当にここ1-2年は激動で、まさにクリステンセンが述べた状況ですね。

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