いたるところで、年末商戦真っ只中ですね。
特売をすると、その時点で売上が一気に上がり即効的な結果を得られることもあり、その期の売上目標達成のために特売や値引きを行う店舗や企業は多いと思います。
しかし大きな弊害もあります。
例えば小売業では、値引きする日は大勢のお客さんが来ますが、値引きしない日はお客さんが来なくなってしまいます。
または、値引きが常態化してしまいます。
つまり通常価格では買わなくなり、特売期間だけ来るようになります。
実際、日本でこの点を調査した研究もあります。
複数の店で牛乳の販売価格とその売上の関係を長期間調査した研究です。結果は、以下の通りでした。
■常に一定の金額で売っている場合はコンスタントに売れる。
■通常はやや高めの価格、特売時にはその半値で売っている場合は、常に半値でしか売れない。しかも、高値と安値の真ん中の金額でもあまり売れない。
つまり、特売や値引きをすることが、消費者の買い控えを生んでしまっている、ということです。
店舗施設稼働率の観点では、施設が十分に活用されてなくなってしまうので、資産収益率(ROA: Return on Assets)も下がる要因になります。
施設稼働率以外にも問題があります。
例えば、消費者向けでなく法人相手の場合、値引き交渉は人間が行います。従って、案件毎の値引き交渉自体にコストがかかってしまう、という点です。
では、どうするか、ということで出てきたマーケティング戦略の一つが、米国・ウォルマートが実践しているEDLP(エブリディ・ロー・プライス)戦略です。(他にも高品質のブランドを確立し、一切値引きせず売る戦略もありますが、それは今回は触れません)
一見すると、毎日値引きしているように見えます。
実際、米国でウォルマートの店舗に行ってみると分かりますが、他の店と比較しても非常に安い価格で販売してます。
しかし、大量仕入れにより仕入れ価格を下げているので、それなりに利益も確保しています。
常に最低価格を保証していることで、お客様は、今、店にいるこの瞬間に提示されている価格が期末に特売で値引きされないことを知っていますので、お客さんは買い控えをしません。
つまり、それなりの利益を確保した価格で大量販売することにより、大きな利益を稼いでいます。
実際、Yahoo! Financeを調べてみると、本日時点のウォルマートの売上高利益率(Profit Margin)は3.4%、資産収益率(ROA: Return on Assets)は8.6%です。
薄利多売ですが、店舗や配送センターという資産の面で見ると、大きな利益を生み出しているということですね。
市場環境が異なるので一概には比較できませんが、日本の大手小売業と比べると、売上高利益率ではウォルマートを凌ぐ百貨店が少数あるものの、資産収益率(ROA)ではウォルマートの方がかなり高い数字になっています。
しかしながら、EDLPを実践するには、高度なローコストオペレーションと、仕入れ原価低減の徹底した努力が必要になります。ビジネス戦略と密接に連携した、ITの活用が不可欠ということですね。
このように見ると、改めて価格戦略は非常に重要なマーケティング戦略の一つであることが分かります。
安い価格で売ることと、値引きをすることは、似て非なるものです。
安く販売するのは戦略ですが、値引きを多発するのは戦略ではない、とも言えるかもしれません。
まあウォルマートは、賃金が「エブリワン・ロー・プライス」ですから…(苦笑)。
そのツケを、従業員の士気低下(を通り越して敵意すら持たれている)→店舗のサービス低下→顧客満足率の低下→売り上げの鈍化、という形で払わされているのも現状ですがね。