「イノベーションのジレンマ」では、イノベータは従来の覇者が気がつかなかった全く新しい顧客を見つけ、新市場を開拓します。
例えば、トランジスタラジオ。
1950年代までは、ラジオと言えば真空管ラジオ。重量10Kg程の大きさの真空管ラジオは居間の真ん中に鎮座し、家族でラジオ番組を聞いていました。
1947年、ベル研究所でトランジスタが生まれました。
このトランジスタを使ってラジオを作ろうと考えたのが日本のソニー。
しかし当時のトランジスタは性能が悪く、誰もが「悪いことは言わないから、こんなものでラジオを作るのは止めておけ」と言ったそうです。
ソニーは苦心惨憺の末、トランジスタラジオを開発して市場に出しました。しかし真空管ラジオと比べて雑音も多く、音質の悪さは一目瞭然。これまでの真空管ラジオを使っていた顧客は見向きもしませんでした。
真空管ラジオを作っていたメーカーも、「あんなものおもちゃ」と思っていました。
しかし購入した顧客もいたのです。
それは真空管ラジオを使ったことがない人達でした。
若者です。
当時、エルビス・プレスリーに代表されるロックンロールが流行っていました。しかし大人達はロックは不良の音楽として、若者達に聴かせませんでした。
居間にある真空管ラジオでロックを聴けない若者たちは、野外でトランジスタラジオを使ってロックを聴き、仲間と踊ったりしていたのでした。
そのうち音質が悪かったトランジスターラジオも次第に性能を向上、真空管ラジオと音質面で並びました。
こうなるとトランジスタラジオの小ささは大きなメリットになります。こうして真空管ラジオは市場から駆逐されてしまいました。
このように、イノベーションが起こる場合、これまでの覇者が全く知らなかった全く新しい顧客(=無消費の顧客)を開拓していることが多いのです。
このように考えると、私たちがイノベーションを起こそうとする場合、無消費の顧客へ無理に買ってもらおうと考えてはいけないのかもしれません。
既に潜在的なニーズを持っている無消費の顧客に、「こんなものがありますよ」とさりげなく提案することが必要なのでしょう。
私たちは意外と、未充足のニーズをそのまま放置しているのかもしれません。