2012/11/29の日本経済新聞に、早稲田大学の長内厚准教授が、「経済教室 家電不況の教訓(上) 海外主戦場から逃げるな」という論文を寄稿なさっています。
大変示唆に富む論文でしたので、一部を引用させていただきます。
—(以下、引用)—
1999年と2012年のブランド別のテレビ世界シェアを見てみよう。韓国は著しく成長したが、日本もシェアを激減させたわけではない。市場規模は2倍に拡大し、各社のテレビ出荷台数も99年当時よりも増えている。韓国が海外で成長する傍らで、日本は国内需要中心のビジネスから抜け出せなかったのだ。
—(以上、引用)—
記事にある各社の1999年から2012年のシェア変化は下記の通りです。
■日本勢■
ソニー:9.9%(1位) → 9.4% (3位)
シャープ:4.5%(6位)→6.5%(4位)
パナソニック:7.3%(3位)→5.3%(5位)
上記3社合計: 21.7%→21.2%
確かに、実は日本勢の世界シェアはほとんど変わっていません。それに対して韓国の成長はすごいものがあります。
■韓国勢■
サムスン電子:3.6%(8位)→25.9%(1位)
LG電子:2.9%(9位)→14.9%(2位)
上記2社合計: 6.5%→40.8%
2社の世界シェアは6倍以上になっています。これはグローバル市場に進出した結果です。
やはりイメージではなく、数字で考える事は重要ですね。
では両者の戦いは、世界ではどのようになっているのでしょうか?
—(以下、引用)—
筆者が米国における液晶テレビの主要製品価格(10月時点)を調べたところ、日本ブランドは韓国ブランドとほぼ同等かむしろ安かった。…日本だから安く作れないという決めつけは、取りうる戦略の幅を狭めてしまうだけだ。韓国のサムスン電子やLG電子はインドやブラジルなどの新興国向け低価格製品の開発に力を入れている。それらを「低価格」と見るのは先進国の発想であり、新興国市場では「ちょっと手を伸ばせば届く高級品」である。
…..
日本企業の行動も過度な価格競争を招く一因になっている。….高解像度パネルなど新技術が製品化されると、日本市場には最新パネルを搭載した製品を投入するが、海外市場では既存製品で価格勝負をする。韓国・台湾メーカーの関係者は「むしろ日本企業がプライスリーダーになっている」と指摘する。
—(以上、引用)—
実はシェアが低い日本企業が価格勝負をしている状況です。
コストリーダーシップを持っているシェアトップ企業に、高コストのシェア下位企業が価格勝負を挑むことは望ましくありません。
ではどうするべきなのでしょうか?長内厚准教授は次のように語っておられます。
—(以下、引用)—
まず、普及価格帯の製品開発から逃げないことである。….新興国市場での競争を考えれば、低価格ラインの製品戦略は避けて通れない。機能・性能を積み上げていく高付加価値戦略だけではなく、機能・価格を絞りながら、製品全体のまとまりをいかに維持するかという製品戦略を学ぶ必要がある。
—(以上、引用)—
大変僭越ながら、これは私がITmedia Marketingの連載記事『「多機能/高品質なのに低収益」――間違いだらけの顧客中心主義から抜け出す』で書いたこととまさに同じ指摘ですね。
—(以下、引用)—
次に、台湾や中国の市場と協業することである。…日本の家電メーカーの特長は新しい技術で新しい製品をつくるという創造性にある。創造的な活動には試行錯誤に伴う無駄が発生する。一方のステップバック戦略の台湾、中国企業は新たなチャレンジはしないので、試行錯誤による無駄はなく、生産性の効率性を高めることが得意だ。両者の関係は、競合ではなく共生である。
—(以上、引用)—
高度な擦り合わせ文化と、組み合わせ文化の協調、と考えてもいいかもしれませんね。
ここでアップルの事例が出てきます。
—(以下、引用)—
米アップルがハードウェアの設計・生産を外部に委託していることは有名だが、誰も「技術流出の懸念」とはいわない。個々の要素技術だけはあっても他社に模倣されないような技術やノウハウ、製品をまとめあげていく力がアップルにあるからであり、それが統合力である。すべて内製化する垂直統合は統合の一つの方法にすぎない。分業をしながら統合力を高めることも不可能ではない。
—(以上、引用)—
この論文は続くようなので、次回も楽しみです。