マーケティング理論やリサーチで、イノベーションは起こせない


日本マクドナルド会長兼社長の原田泳幸さんのインタビューは、非常に啓発されました。

—(以下、引用)—

社員に最近よく言っていることは、スタッフをマネジメントするときに、いろいろな管理目標とかあるじゃないですか。数値管理して、数字で人を評価する、これをやったら社員は全員だめになる。最初は考えさせるんです。「考えをまとめ、自分の進捗をきちんと継続するために、こういうツールがある。これは支援ツールだよ」とマネジメントしないと、「これでこれをこのようにやれ」と言うと、それをやることが仕事になって、みんなの思考能力が犠牲になるわけです。

—(以上、引用)—

全く、その通りですね。

自分、または自分の組織の仕事の進捗をどのように管理するか、ということを考え抜いた結果、自分自身で数値目標を設定することは非常に意味があることだと思います。

また、チームメンバーと、仕事をどのように進めるかを突き詰めて考えた結果、管理システムを活用して進捗チェックしていくことも、意味があることでしょう。

しかし、数字だけを与えて、「これを達成するかどうかで仕事を評価します」と行うと、何も考えずにやみくもにその数字を追いかけてしまう人を増やしかねません。

党内論理が最優先になってしまい、ニッチもサッチも行かない現在の国会同様、与えられた数値目標最優先では、組織が思考停止状態になりかねません。

気をつけたいものです。

—(以下、引用)—

あと、よく言うのは「事業企画は絶対にリサーチで立てるな」、「お客さまにリサーチして商品企画を計画しても絶対に失敗する。自分が信じるものをお客さまに提案しろ」ということです。「自分が信じるものを一生懸命やって、その通りいっているかどうかの検証のためにリサーチがあるんだ」と言ってます。頭のいい人はサイエンスで事業企画を立てようとする。特にMBAはそういうところが多いですね。

—(以上、引用)—

日産/ルノーCEOのカルロス・ゴーンさんも、

「消費者は5年後の車に対する答えは持たない」

という非常にシンプルな言葉で、過度な顧客志向(というよりも、むしろ顧客依存体質と言うべきかもしれません)の弊害を喝破しています。

また、ヘンリー・ミンツバーグも、MBA的な様々なマーケティング理論万能論について、警鐘を鳴らしています。

私自身、マーケティング戦略立案に携わっていて改めて感じるのは、世の中のリサーチ手法やマーケティング理論は、自分なりに考えた仮説が正しいかを検証するために使うから有効なのであって、これらによって創造性やイノベーションが生みだされることはない、ということです。

創造性やイノベーションは、やはり個人の思いから生まれるものであり、リサーチ手法やマーケティング理論ははその有効性を検証し他の人に対する説得性を高めるための手段である、と割り切って考えた方がよいのかもしれません。

その意味でも、

「自分が信じるものを一生懸命やって、その通りいっているかどうかの検証のためにリサーチがあるんだ」

とおっしゃる原田さんの意見には強く賛同します。

ただし、これを「プロダクト・アウト的アプローチのすすめ」と捉えて、お客様を無視して自分達のやりたいことをひたすら追求するのは、やはりやり過ぎです。

「自分の信じるものを追求する」

「しかしお客様に喜んでいただくことを常に念頭に置く」

「マーケティング手法や理論はそのための手段として活用する」

というバランスが大切なのだと思います。