このブログでも何回かご紹介した「貫徹の志 トーマス・ワトソン・シニア IBMを発明した男」(ケビン・メイニー著、有賀裕子訳)を読了しました。500ページを超える分量で、読み応えがあります。
結論から申し上げると、とても得るものがありました。
私が勤務するIBMは、独特な企業文化を持っています。
会社の中にいると、この企業文化が会社の至る所に根付いていることがよく分かります。
この企業文化をよりよく理解する一助になればと思い、私は様々なIBMに関する書籍を読みました。
特に、先代CEOのガースナーが引退直後に書いた「巨像も踊る」は、外部から来た人の視点で、IBMの内部や企業文化について述べており、特に参考になりました。
ただ、多くの著作が現在のIBMの文化をgivenのもの(=既に与えられた前提条件)として捉えているものが多く、IBMの企業文化がどのようにして生まれ育っていったのかについて、腹に落ちるような説明は得られませんでした。
このトーマス・ワトソン・シニアの本は、現在のIBMの企業文化の基盤が、1920年代から1950年代を通じていかに培われてきたか、徹底した調査を元に非常に克明に描いています。
IBMの企業文化が培われてきた様子を、このように克明に描いた書籍に出会ったのは、初めてです。
著者は、ワトソンの数々の遺産の中で、下記3点が特筆に値するとしています。
1.情報という種から産業を芽生えさせた
「統計機械やコンピュータはワトソンがいなくても発明・販売されていたが、それをビジネスに仕立て上げて情報処理関連の製品を企業・大学・政府・軍部に売り込む手法を編み出し」、その結果、「情報処理は一つの産業としてまとまりを保ちながら発展していった」と述べています。
2.企業文化に大いなる可能性を見出した
「ワトソン以前には、社風は経営陣が意図して育て慈しみ分析することはなかったのに対し、ワトソンは明快で躍動感あふれる社風を培い、どうすれば新たな息吹を吹き込めるかに絶えず心を砕いていた」と述べています。
3.企業経営者が著名人(セレブ)として扱われるさきがけとなった
「ワトソンはIBMが小粒だった当時からすでに著名人の仲間入りを果たしており、名を上げるための努力を惜しまなかった」と述べています。
また、本書では、ガースナーの著書「巨像も踊る」のガースナーの言葉を引用しています。
「IBMでの日々をとおして痛感した。企業文化は数ある要素の一つではなく、これこそがすべてを決めるのだと。…..突き詰めていけば組織とは、一人ひとりの価値を生み出す力が積み重なったものにほかならない」
このIBMの企業文化を生みだす企業遺伝子を理解する上で、本書は大変参考になると思います。