「リスクヘッジ」の名目で、目標分散させてはいけない


戦略は、一つに絞ることが必要です。

しかしともすると私たちは、なかなか戦略を1つに絞り込めません。特に意志決定者の意見が割れたりすると、折衷案として「戦略を1つに絞るのはリスク」と考え、「リスクヘッジ」の名目で、複数の戦略を立てることがあります。

しかし複数の戦略はリスクヘッジとはならずに、逆にリスクが増えます。

 

1941年12月に始まった太平洋戦争は、緒戦の半年間は日本軍は米軍に対して圧倒的に優勢でした。日本軍が劣勢に転じたきっかけは、1942年半ばのミッドウェイ海戦でした。(ミッドウェイは、日本とハワイの中間地点にあります)

ミッドウェイ海戦では、日本軍の目的は2つに分かれていました。

帝国海軍・連合艦隊では、戦略の目的は「米海軍の空母機動部隊の撃滅」でした。当時、米国海軍の空母艦隊は健在だったので、「太平洋の制海権を取るために、彼らを撃滅しなければ」と考えたのです。

一方で軍令部では、戦略の目的は「ミッドウェイ島攻略」でした。直前に日本本土が少数の米軍機で空襲されたので、「本土再空襲阻止のために、ミッドウェイ島の攻略が必要だ」と考えたのです。

両者譲らず、戦略の目的は一本化できませんでした。

そこで「米国海軍機動部隊を殲滅するとともに、ミッドウェイ島の攻略を図る」という曖昧な戦略目的が立てられました。

結果は、惨敗。
空母の甲板上で、日本海軍の攻撃機が陸上基地攻撃用爆弾を抱えて攻撃準備していました。しかし「敵空母発見」の方を受けて攻撃用魚雷に1時間かけて換装することになりました。このタイミングで米国海軍急降下爆撃機の爆撃を受けました。爆弾と燃料満載の空母甲板が直撃され、日本海軍の主力空母を4隻喪失してしまいました。

その後、太平洋の制海権を失った日本軍は劣勢に転じ、そのままジリジリと敗戦の道を歩み始めました。

ちなみにこの時の米国海軍の戦略目標は、「日本空母の殲滅」と首尾一貫して明確でした。

 

あいまいな複数の戦略目標を持つことが、リスクヘッジになるどころか、むしろ戦力が分散し、大きなリスクを抱えることになるのです。

しかしこのような意見もあるかもしれません。
「そうは言っても、失敗したときの二の矢、三の矢が必要なのではないか?」

これは全くその通り。二の矢、三の矢を考えることはとても重要です。
しかし、一の矢、二の矢、三の矢は、すべて同じ戦略目標に対して準備するものです。
二の矢、三の矢は、あくまで一の矢が失敗したときにバックアッププランなのです。

 

戦略で一番難しいのが、「選択」です。
難しい選択を避けるから、戦略が失敗してしまうのです。

 

 

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