企業が短期志向に走るのも、同族企業が非同族企業よりもの業績がよいのも、「エージェンシー理論」で説明できる、という話


ハーバードビジネスレビュー2015年4月号に、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄准教授の連載「世界標準の経営理論 第8回 エージェンシー理論 人が合理的だからこそ、組織の問題は起こる」が掲載されています。

昨日書いたブログ『「経営者の年収は、上限2000万円でいい」という話』の問題を整理する上で参考になりましたので、ご紹介します。

 

エージェンシー理論では、まず経済主体(プリンシパル)がある行為を代理人(エージェント)に依頼して代わりに行動してもらっている状況を考えます。こんな感じですね。

Principle-Agent

ここで、

(1)両者の「利害不一致」と、

(2)プリンシパルがエージェントの細かい行動をチェックできないこと(「情報の非対称性」)により、

エージェントが合理的に行動することで、結果的にプリンシパルに不利益な行動を取ってしまうことがあります。(「モラルハザード」と呼びます)

エージェンシー理論は、これをどのように回避するかという理論です。

(なお、「モラルハザード」というと倫理的・精神的に捉えがちでしが、ここではそのような議論はしていません。あくまで「情報非対称性」「利害の不一致」によるエージェントの合理的な行動の結果として、プリンシパルにとって不利益な行動を取ってしまう状況を「モラルハザード」と呼んでいます)

 

ちょっとわかりにくいので、例で説明します。

たとえば「会社は株主のもの」という考えのもとでは、株主というプリンシパルが「株主価値最大化」という行為を、経営者というエージェントに依頼しています。

 

ここでまず「利害の不一致」が起こります。

株主は株主価値最大化を経営者に期待していますが、経営者はリスクが高い戦略を採って失敗すると職を失う可能性があります。そこで大きなリスクを伴う経営判断を避けて無事に任期を終えたいと考えがちです。

株主としては、ある程度リスクを取って株主価値最大化を図って欲しいわけですね。

そこで作ったのが、ストックオプションという動機付け(インセンティブ)の仕組みです。株主価値が上がると、経営者も金銭的収入が入ることになります。

 

また、「情報の非対称性」の問題が起こります。

株主は経営者に株主価値最大化を期待していますが、日々の経営者の行動をチェックできません。

収益最大化により株主価値最大化を実現するには、人員整理や給与カットなどの痛みを伴う判断もしなければなりません。しかし痛みは避けたいですよね。そこで経営者は売上増などの規模拡大を追求します。売上が伸びていれば、人員整理や給与カットは避けられます。

そこで作ったのが、コーポレートガバナンスという考え方。たとえば大株主が取締役会に参加するなどして、株主の価値に見合った経営をしているかモニタリングしています。

 

つまり、利害の不一致という問題をインセンティブの仕組みで、情報の非対称性という問題をモニタリングという仕組みで、解消を図っているのですね。

 

プリンシパル=株主、エージェント=経営者、という考え方では、このようになるわけです。

一方で株主などの機関投資家は、長期志向よりも短期志向になりがちです。

昨日のブログでご紹介した城南信用金庫の吉原毅理事長は、まさに「長期的視点よりも短期的視点を優先し、目先の経営にこだわることが問題だ」とおっしゃっています。

このことはどのように考えればよいのでしょうか?

 

これを考える上で、一つのヒントがあります。

「創業家が大手株主で、経営陣に入っている同族企業の方が、非同族企業よりも業績がよい」という結果が、多くの実証研究で得られています。

株式会社の基本は所有と経営の分離ですが、これによりモラルハザードが起こります。

同族企業であれば、株主と経営者の「利害の不一致」と「情報の非対称性」がきれいに埋まり、大胆な戦略を採っても解任リスクは少ないのです。

実際、創業者が大手株主で経営している会社で、長期的視点で大胆な戦略を採り、成功している企業も多いのです。

 

このように、エージェンシー理論に基づいて、誰が経済主体(プリンシパル)で、誰が代理人(エージェント)かを見極め、どのようなモラルハザード(プリンシパルに対する不利益な行動)が発生しているのかを考えると、組織の問題を整理する思考の軸が確立できます。

日々直面する組織の問題を整理する考え方として、身につけたいものです。

詳しく知りたい方は、ハーバードビジネスレビュー2015年4月号の入山准教授の連載をご一読を。