「ヘッドピンの存在を信じる」マツダ スカイアクティブ成功の裏側


Ten Pin Bowling Pins And Ball

マツダは4年連続赤字やフォードの出資比率低下による信用低下などによる苦境を乗り越え、現在好調です。このマツダの好調に大きく貢献しているのがスカイアクティブ・テクノロジーです。

しかしマツダは業界トップのトヨタと比べると規模は1/10以下。エンジン周りの開発人員に至っては、フォードとの共同開発案件に駆り出されていたこともあって、数十分の一でした。そんな状況で、「燃費を30%以上改善しながら、走りの楽しさも実現する」という目標を立てて、スカイアクティブ・テクノロジーが開発されました。

 

マツダのスカイアクティブ・テクノロジーの挑戦については、「100円のコーラを1000円で売る方法2」や当ブログでも何回か紹介しました。

開発本部長としてこの開発を陣頭指揮された、マツダ・常務の人見 光夫さんが、著書を出されました。

「答えは必ずある---逆境をはね返したマツダの発想力」(人見 光夫著)

マツダの挑戦については、これまで主にマスコミの記事で報じられていましたが、人見さんご自身が何を語られるのかとても興味があり、拝読しました。

 

やはり現場で格闘されている人の言葉には重みがあります。

いくつかご紹介したいと思います。

—(以下、引用)—

もっとも、私たちの「選択と集中」は前述のとおり、多くの選択肢の中からどれかよさそうなものを選んでそこに集中するということではなく、さまざまな課題に共通している主要共通課題を賢く選択して、その部分の解決に集中するという意味である。 ボウリングのように、後ろのピンがすべて倒れるようにヘッドピンにうまく当てるのが理想だ。

(中略)

最も重要なことは、ヘッドピンの存在を信じることだ。 常に、そうした目でものごとを見るという習慣が何よりも大事だ。そうすれば、必ず見えてくる。一人ではダメでも、チーム力を駆使すればそれができる。

—(以上、引用)—

本書ではこの「ヘッドピン」という言葉がよく出てきます。

自動車開発に限らず、実に多くのケースでこの「ヘッドピン」というのは存在する、ということは、私も実感します。

ともすると私たちは、常識に囚われたりして、表面的な現象を問題の原因と考えがちです。しかし、様々な視点でその奥深くに潜む本当の原因は何かを徹底的に考えることが必要になります。

様々な現象の本当の原因を徹底的に考え、シンプルな原因に辿り着くことで、ヘッドピンが見えてくるのです。

逆に言えば、対策が10個もある状態では、まだまだ思考が不足している証でもあるのです

 

競争について語っている箇所もあります。

—(以下、引用)—

自動車業界を見渡せば、現在でもそうした後追いはある。なぜ後追いをするのか。不安だからだ。不安になるから真似をする。

—(以上、引用)—

「不安だから真似をする」というのは、まさにその通りだと思います。

日本企業に限らず、世界を見渡しても、成功している他社の模倣をする企業はとても多くあります。

しかし成功企業の真似をしようとしても、100%真似をするのは不可能です。成功企業は独自の強みを持っているからです。だからコピーしたつもりでも「劣化版コピー」にしかならず、「安価な代替品」になってしまうことも少なくありません。

我々は、「模倣は、実はリスクが大きい」ということに、気がつく必要があるのではないかと思います。

 

仕事のあり方についても、語っている箇所があります。

—(以下、引用)—

だから、私はできるだけものごとをシンプルに考えて、仕事は減らさないといけないと言っている。もちろん、ラクをするためではない。無駄をなくし、より重要で、全体最適に貢献する仕事をするためだ。 そこを解決すれば、品質もよくなるし、性能もアップする。そしてコストも安く済む。そうした課題を見つけるという発想で課題を探し、ソリューションを考える。それがつまり、仕事を減らすということの意味だ。

—(以上、引用)—

「品質と性能をアップし、コストを削減し、仕事を減らす」

相矛盾するように聞こえますが、実はシンプルな理想形を徹底追求すると、不可能なことではありません。

無駄を排除すること、言い換えれば、不要な様々なモノを切り捨てればよいのです。

それは仕事だったり、製品だったり、あるいはお客様だったりします。

しかし私たちは、この「不要な様々なモノを切り捨てる」ことがなかなかできません。企業は組織ですから、当然ながら利害関係者の反対もあります。

そのためには、価値観と、全体最適の姿を徹底的に共有するチームワークが大切になってきます。

 

スーパーマンのように見える人見さんですが、先行開発部での仕事が長く、ご自身のキャリアの中で、実際の商品開発には関わってこられなかったため、このように語っておられる箇所もあります。

—(以下、引用)—

すでにそれなりの年齢になっていたのに、特に満足感や達成感が得られないまま過ごしているという焦燥感も強かった。自分の仕事がなかなか商品化されない。たとえ商品化されたとしても、技術者としてどれだけのことをしたのかと問われた時に説明ができない。山のようにある技術のうちの数種類に携わったというだけのことでしかないという虚しさだ。

(中略)

考え方、技術のとらえ方を変えないと、「何もできないまま、サラリーマン人生終わりだな」と日に日に強く感じるようになっていた。

—(以上、引用)—

会社に務められて、同じような気持ちを抱えながら仕事をしている方は多いのではないかと思います。

 

等身大で語られる本書から、私たちが学べることは多いと思います。