徹底した顧客目線が、AIビジネスを成長させる


いま、AIビジネスが爆発的に伸びています。爆発的に成長する海外のAIビジネスに共通するのは、「顧客目線をしっかり持っている」ということです。

たとえば、「次世代のインテル」とも言われているNVIDIA (エヌビディア)。

もともとNVIDIAは、GPU (Graphics Processing Unit)という画像処理専用チップを提供する老舗企業でした。

画像処理では、単純な計算がものすごく大量にあります。NVIDIAのGPUは、この単純で大量な計算を並列で行うことで、通常のCPUよりも数十倍速く完了できるようにしました。おかげで私たちは、パソコンなどで動画を自然に見ることができます。

ある日、NVIDIAのCEOは、社員からこんな報告を受けました。

「大学のAI研究者がGPUを使っています」

実はAIで大量データを学習する「デュープラーニング」という処理も、画像処理と似ています。並列で行える割と単純な計算が、ものすごく沢山あります。

これを通常のCPUで処理していると、とても時間がかかります。
並列処理に特化したGPUを使えば、数十倍に高速化できます。
たとえば数ヶ月間かかる計算が、数日間で終わるということです。
そこでAI研究者は、GPUをAIの研究に流用していたわけですね。

AIビジネスの成長を感じていたNVIDIAのCEOは「千載一遇のチャンス」と考え、経営資源をAI分野に集中する決定をしました。

早くからAIビジネスに取り組み、AI研究者を取り込んだおかげで、既にNVIDIAは自動運転に取り組む多くの自動車メーカーで採用されるなど、AI分野でデファクトスタンダードの地位を確立しつつあります。

NVIDIAの2016年度売上は69億ドル (7700億円)で、現時点で企業価値は844億ドル(約9兆円)。この出発点は、ユーザーであるAI研究者のニーズだったのです。

 

GoogleもAIビジネスに大きく投資しています。Googleでは、自社データセンターで使用するためにTPU (Tensor Processing Unit)というAI処理に特化したプロセッサーを開発し、実装が始まっています。先週、世界最強棋士に三連勝したGoogleの囲碁AI「AlphaGo (アルファ碁)」も、TPUを使っています。

GoogleがこのTPUを開発したきっかけも、顧客目線でした。
Googleは2011年頃にAI研究を本格的に始めました。
この時、ユーザーが毎日3分音声検索して音声認識のためにAIを使うと、データセンターの規模が2倍になることがわかりました。このままAIを本格的に始めると、膨大な投資が必要です。

そこでAI処理に最適化したプロセッサーが必要になったのです。
TPU開発も、Google自身がAIのユーザーであり、顧客目線を持っていたからこそ、生まれたものでした。

 

AIビジネスが爆発的に成長する米国では、ユーザーと開発が非常に近い関係にあります。

日本でも、自動運転に取り組む自動車産業のように、ユーザー目線でAIビジネスに取り組む業界も出てきています。

 

しかしながら、一方で、

「AIが流行っているらしい。何しようか?」
「AIと名前が付けば何でもいいから、ウチの商品で何かやってくれ」

という取り組みが少なくないのも、現実です。

 

ユーザーのニーズがビジネスを生むのは、あらゆるビジネスで共通です。テクノロジー産業も例外ではありません。

テクノロジーへの洞察力を持った経営陣が、徹底したユーザー目線を持ち、テクノロジーの将来像を描き、必要なテクノロジーのあり方を見据えることで、テクノロジー産業は進化してきました。

日本企業でも、かつての松下電器やソニー、そして今のソフトバンクも、そうやって成長してきました。

先進的なテクノロジー産業だからこそ、しっかりした技術の理解とビジョン、そして徹底した顧客目線か大切なのです。

 

 

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