製造コスト50ドルで1000ドル節約する商品。日米欧の経営者の値付けは?


世界的な価格戦略の第一人者であるヘルマン・サイモンとハーバード・ビジネススクールのロバート・J・ドーラン教授は、名著「価格戦略論」の最終章で、日本企業の経営者とのこんな経験を紹介しています。

1980年代後半、ハーバード・ビジネススクールで行った経営者向けセミナーの参加者に「製造コスト50ドルで顧客に1000ドルの節約を実現する製品に、いくらの価格を設定するか」という課題を与えました。

欧州経営者は600ドル、米国経営者は500ドルと答えました。
しかし日本の経営者の答えは、100ドル。

日本の経営者はその理由をこう言いました。

「我々は高い顧客付加価値の実現は我慢し、その代わりに市場の占有を目指している」

30年以上前の出来事で、日本企業が抜群のコスト競争力を持っていた頃の話です。

今やコスト競争力はアジア諸国の方が優れていることが多いのですが、「高い顧客付加価値は我慢して、市場占有を狙う」という考え方は日本流商売の遺伝子に深く刻み込まれているようにも感じます。

日本流商売の源流を遡ると、江戸時代後期、享保時代に活躍した石田梅岩の思想に辿り着きます。

梅岩は「経費を3割節約し利益を1割減にせよ。常に奉仕を心がけ、欲を出すな」と説きました。この思想は日本にとって大きな財産でした。日本は庶民の間にこの考えが拡がった状態で明治維新を迎えて殖産興業を実現し、さらに戦後の荒廃の中から高度経済成長を成し遂げました。

この30年間、日本は高付加価値へのシフトが求められています。
多くの日本企業にとって、高付加価値戦略は初の挑戦です。
しかし日本企業は製品性能に頼りすぎ、感情的便益を無視し、強いブランドを創れていません。

そんな中でも、日本企業の中には、シマノ、マキタのように隠れた高付加価値を築き上げた企業もあります。

今後日本企業が高付加価値戦略を実現するには、これまで疎かにしがちだったブランド戦略と価格戦略の基本を改めて学んだ上で、一見矛盾する梅岩の思想との正反合を図り、日々の仕事で実践すべきなのではないかと思います。

 

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