「方針を決めた。皆で頑張ろう」は戦略ではありません


時々、こんなトップを見かけます。

「経営陣で戦略を話し合った。2030年の目標を○○○とした。みんなで知恵を出し合って頑張ろう」

えーと。あのー。ちょっと待ってください。
それって戦略って言わないんですけど。

「戦略は明確だ。○○○を達成することだ。あとは現場に頑張ってもらう」

真剣にこう考えているトップをみかけます。
しかし目標設定は、戦略ではありません。
単なる願望です。

戦略とは、その目標をどのように達成するかという方法です。

でもこう言うと…

「それはキミ、明確だよ。2023年には□□□を達成して、2025年には◇◇◇を達成、2028年には◎◎◎、そして2030年には○○○を達成するんだ。しっかり決めているよ」

と真剣な顔をして反論する人もいます。

うーん。これも違います。これは目標を細分化しているだけ。
目標をどのように達成するかは、相変わらず何もありません。

でもこれは目標を細分化しているだけ。
目標をどのように達成するかは、相変わらず何もありません。

問題は、目標と戦略を取り違えていることです。
世の中ではこれを「希望的観測」と呼びます。
「いかに目標を達成するか」をトップが考えずに、部下に丸投げしている状態なのです。

戦略とは具体的で明確なものです。

たとえば、もはや古典的な事例になりましたが、私が在籍していたIBMが破綻寸前に陥っていた時にCEOに就任したガースナーは、戦略を明確に示しました。

ガースナーに与えられた課題は、破綻寸前のIBMを復活させ、成長させることでした。

当時、IBMは大型コンピュータ主体の会社でしたが、世の中の動きについて行けずに低迷していました。当時の圧倒的多数派の意見は「IBMは図体が大きすぎる。解体すべし」でした。これを受けて、IBMも分社化の準備を進めていました。

しかしガースナーはCEO就任前にIBMの大手ユーザー企業のトップでした。彼はこう考えました。

「コンピュータ業界では、ソフト、ハード、データベース、PCなど、様々な分野への細分化が進行中だ。みなバラバラで顧客は困っている。一方でIBMは全分野に通じている。これは顧客にとっていいことだ」

その上で、彼はこう考えました。

「IBMの問題はこの総合的なスキルを活かしてないことだ。むしろ統合化を進めるべきだ。バラバラなIT製品を統合する顧客向けソリューションを提供しよう」

そこでこんな方針を出しました。
「顧客向けにオーダーメイドのソリューションを提供する」

さらにこの方針を実現するために、こんな施策を立てて実行しました。
・既存のハードウェア事業部とは別に、新たサービス事業とソフトウェア事業を立ち上げる。
・従来のIBMのタブーを破って、他社製品も取り扱いを開始する
・これまでの地域別・製品別の組織では世界で展開したい大手顧客を支援できないので、顧客別の組織へ再編する

このように本来の戦略とは、課題を解決するために、具体的で、首尾一貫しており、さらにビジネスの場合は顧客目線であることです。

改めて言うと「方針決めたので皆で頑張ろう」は戦略ではありません。

最近気のせいか、色々なところでますます多く見かけるような気がします。特に政府の発表に多い気がします。

自分たちは気をつけたいものですね。

     

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